内閣府によると、2024年の春季労使交渉で賃上げ率は33年ぶりの高水準となった。しかし、物価上昇の影響で日本の実質賃金はこの30年間ほぼ横ばいであるため、多くの人が賃上げの恩恵を受けられていない。さらに、大学の学費高騰や社会保険料の増加、扶養控除の縮小といった要因が重なり、子育て世代の家計はより厳しくなり、子どもの進学には奨学金に頼らざるを得ないという家庭も多い。実際、出生率は減少の一途をたどる一方で、奨学金の年間貸与人数や貸与額は増加傾向にある。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済の現状とその解決策についてアクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
子に同じ苦労をさせたくない…娘の奨学金返済を肩代わり、世帯月収42万円・40代両親の「苦渋の決断」

奨学金の返済支援策

奨学金の返済支援策としては、JASSOが2021年4月に開始した「奨学金返還支援制度」がある。本制度は、奨学金を貸与されていた従業員の奨学金返還残額を、企業等がJASSOへ直接送金するものだ。企業からJASSOへの直接送金となるため、従業員の給与所得とはみなされず、所得税が非課税となる点がメリットとなり、従業員の定着支援にもつながる仕組みである。JASSOによれば、本制度の導入企業数は2024年10月末時点で2,587社※2に達しており、支援の輪が広がっている。

 

学費の高騰、物価上昇、しかし賃金は横ばいという状況で、奨学金を利用せざるを得ない学生は増加している。JASSOの奨学金だけでも、大学生の約3人に1人が奨学金を利用している※3状況である。

 

Aさんのように子どもの奨学金を肩代わりできる親は多くない。奨学金の返済が学生や若手社会人の経済的・精神的負担となり、キャリア形成やライフイベントへの積極性を阻害することのないよう、社会全体での支援が不可欠といえるだろう。
 

〈参考〉

※1 「令和4年度 奨学金の返還者に関する属性調査結果」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-08

https://www.jasso.go.jp/statistics/shogakukin_henkan_zokusei__icsFiles/afieldfile/2024/09/10/02_r4zokuseichosa_shosai_1.pdf

※2 「若手人材に選ばれる企業へ!企業等の奨学金返還支援制度」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-10

https://dairihenkan.jasso.go.jp/

※3 「若手人材に選ばれる企業へ!企業等の奨学金返還支援制度」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-10.

https://dairihenkan.jasso.go.jp/

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者