内閣府によると、2024年の春季労使交渉で賃上げ率は33年ぶりの高水準となった。しかし、物価上昇の影響で日本の実質賃金はこの30年間ほぼ横ばいであるため、多くの人が賃上げの恩恵を受けられていない。さらに、大学の学費高騰や社会保険料の増加、扶養控除の縮小といった要因が重なり、子育て世代の家計はより厳しくなり、子どもの進学には奨学金に頼らざるを得ないという家庭も多い。実際、出生率は減少の一途をたどる一方で、奨学金の年間貸与人数や貸与額は増加傾向にある。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済の現状とその解決策についてアクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
子に同じ苦労をさせたくない…娘の奨学金返済を肩代わり、世帯月収42万円・40代両親の「苦渋の決断」

親による奨学金の肩代わり

娘の大学入学時の世帯月収(賞与を除く)は約42万円だった。娘の卒業を間近に控えたタイミングで、Aさんは昇格し収入が増加した。学費や生活費の支払いが終わると余裕ができることがわかり、娘の奨学金を自分が返済することを考えるようになった。

 

実は、全額負担することは叶わなかったが、学費の一部はAさんが支払っていたため、Aさんの娘は奨学金を全額使わずに卒業した。残高は繰り上げて返済金額に充当し、残りはAさんが月々返済している。Aさんの娘は、父から奨学金を代わりに返済すると聞いたときのことを、「本当にありがたいと思った。手取りがいくらになるかもわからないなかで、30代後半まで奨学金を返済し続けることはとても不安でした」と語る。

 

独立行政法人日本学生支援機構(以下、JASSO)では、奨学金を借りた本人以外の口座を返還口座として指定することができる。Aさんの娘は無利子であるJASSOの第一種奨学金の貸与を受けていたため、Aさんはこのまま自分の口座から月約1万5,000円の返済を続け、当初の返済期間を大幅に短縮し、娘が30歳になる6年後には完済する見込みだ。Aさんの妻も、「娘には自分のような経験をさせたくない。結婚や子育てでなにかとお金がかかる前に、返済の目途が立ってよかった」と安心している。

肩代わりによる贈与税

JASSOの「令和4年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」によれば、約15%※1が「本人の親」による返還、つまり親が奨学金返済を肩代わりしているケースであることがわかる。

 

しかし、親の肩代わりには税制上の注意が必要だ。贈与税の基礎控除額の範囲内であれば問題ないが、奨学金の一括返済のためまとまった金額を贈与する場合には、課税対象となる可能性がある。奨学金は教育終了後の返還義務であるため、直系尊属(親や祖父母)からの教育資金の一括贈与に適用される非課税枠の対象外となり、基礎控除額の年間110万円を超過した分は課税対象となる点に留意しなければならない。