奨学金は、多くの若者にとって大学進学のための重要な資金源だ。しかし、返済に苦しむ現状を知らない人も少なくない。大学生の奨学金に対する意識や、奨学金の返済が進学・就職・キャリア形成にどのような影響を与えるのだろうか。本記事では、AさんとBさんの事例とともに、奨学金返済の現状と社会的課題について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
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奨学金返済の不安から大学進学を断念

あるSIer企業のキャリア開発研修に参加した際、業務範囲を超えた知識やスキルを身につけたいと話すAさんの姿が印象的だった。話を聞くと、彼は奨学金返済への不安から大学進学を諦め、就職したという。

 

※企業や組織のために情報システム(ITシステム)を設計、開発、導入、運用する専門の企業のこと

 

“奨学金=借金”という意識と進学への葛藤

Aさんの両親は、高校卒業後にすぐ働きはじめ、若くしてAさんを授かった。

 

「母親は21歳で出産し、自分が1歳になるタイミングですぐに職場復帰しました。育児だけでも大変なのにフルタイムで仕事をこなし、本当に尊敬しています」

 

高校での進路相談時、両親からは「やりたいことがあるなら大学にいかせてやりたいけど、奨学金を借りてもらう必要がある。どこも人が足りてないから高卒でも働き口はあるよ」といわれた。数学が得意だったAさんは、データを扱う分野に漠然と興味を持っていたが、“奨学金=借金”という意識が強く、進学に抵抗感があった。

 

Aさんは、「進学して就職できなかったら、就職できても給与が低く奨学金の返済を滞納してしまったら……と、不安が募る一方でした」と振り返る。その結果、社会人になってから自力で大学に通うこともできると考え、高校卒業後すぐに就職した。

 

働きながらスキルを習得する難しさ

就職して5年が経ち、Aさんはこれからのキャリアについて考えている。「毎日目の前の仕事に追われ、仕事が終わったあとで業務範囲外の新しい知識を学ぶのは本当に大変です。わかっていたことですが、大卒社員とのキャリアパスの差も明確で、社内での昇進には限界があります」と、冷静に語った。

 

さらにAさんは、「自分のやりたいことに時間やお金を投資できる環境を手に入れたい」と、転職も視野に入れているという。社会人になってからも学ぶことはできると奨学金を借りずに就職したAさんはいま、社会に出てから学ぶことの難しさを痛感し、身を置くべき環境を模索している。