2022年の日本の出生率は1.26となり、過去最低を記録した2005年に並ぶ水準となった。日本の少子化はなぜ止まらないのだろうか。そこで本稿では、少子化の原因と、少子化対策における「財源」を確保する方法について、ニッセイ基礎研究所の金明中氏が詳しく解説する。
日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について (写真はイメージです/PIXTA)

今後少子化対策として「社会保険料への上乗せ」が予想される理由

しかしながら「社会保険料への上乗せ」に対して国民は冷たい反応を見せている。日本経済新聞社が5月26~28日に実施した世論調査によると、政府が調整している医療保険料などに上乗せする案について「反対」が69%で「賛成」の23%を大きく上回った。また、専門家や経済界、さらに自民党内でも「社会保険料への上乗せ」について反対する声が出た。

 

予想以上に反対する人が多いこともあり、「こども未来戦略方針」では、「2028 年度までに徹底した歳出改革等を行い、それらによって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用しながら、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す。」と、「社会保険料への上乗せ」については直接的な言及をしていない。

 

しかし、小倉将信内閣府特命担当大臣は7月4日の記者会見で、少子化対策の財源を巡り企業を含めて幅広く負担を求める新たな支援金制度を検討する準備室を設置したと発表した。

 

年末までに結論を出し、来年には法案を提出する方針であり、今後は「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」を中心に少子化対策の財源が議論されていく可能性が高い。

むすびにかえて

今後、少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用と賃上げが必要であると考えられる。特に、男女間における賃金格差、出産や育児による経歴断絶、ガラスの天井4など結婚を妨げる問題を改善し、女性がより安心して長く労働市場に参加できる環境を作ることが大事だ。

 

また、若者が結婚して子育てができるように負担が少ない公営住宅や民間の空き家を活用する支援も欠かせない。さらに、多様な家族を認めて社会保障制度の恩恵が受けられる社会をより早く構築する必要があると考えられる。政府、企業、個人が一つになり、少子化の危機を乗り越えていくことを望むところである5

 


4 「ガラスの天井」とは、英語のGlass Ceilingの訳で、組織内で昇進に値する十分な素質や実績をもつ人材が、性別や人種などの要因により昇進を阻まれてしまう不当な状態を意味する。キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現である。

5 本稿は、金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(5)日本でも進む未婚化・晩婚化/子育て世帯への給付拡充(達人が伝授)」『日経ヴェリタス』2023年7月9日と金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(6) 財源確保、負担増に反対多く/意識改革や賃上げが重要に(達人が伝授)終」『日経ヴェリタス』2023年7月16日を加筆・修正したものである。