(※写真はイメージです/PIXTA)
相続人全員で貸金庫を開閉
Aさんが銀行に連絡すると、相続人全員で来るようにいわれました。ですが、Aさんの母親は認知症で足腰も弱っている状態です。Aさんは、母親の代理人を立てることで理解してもらい、弟とともに銀行に向かうことにしました。
日本は高齢化や核家族化が進んでいますので、相続人の年齢が高齢だったり、遠方に住んでいたりと、どうしても貸金庫の開扉に立ち会うことができない場合が出てきます。銀行側は相続人全員の立ち会いを求めてくることがありますので、そのような場合はまずは銀行側に相談してみましょう。
なお、相続人の行方がわからない場合もあります。相続手続きを進めるときには、必ず相続人同士での話し合いをしなければいけません。連絡が取れる相続人だけで分割協議をすることは認められないのです。貸金庫を開扉するときも同じです。もし、相続人で行方がわからない人がいるようであれば、戸籍の附票を取り寄せるなどして現在の住まいを確認し、連絡を取る必要があります。それでも相続人を見つけられない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる方法があります。
父親の貸金庫の中身
当日、Aさんは弟と母親の代理人となった母親の実妹、そして念のために税理士資格を持つ友人を連れて銀行に行きました。実際に貸金庫を前にすると、なにが出てくるのかとドキドキしました。
扉が開くと、中身は100gのインゴット2枚とマンションの権利証、高級時計が入っていました。これらはすべて評価額を算出する必要があります。マンションの相続税の計算には不動産の相続税評価額が用いられ、相続税評価額は建物と土地にわけて評価を行います。高級時計も動産として相続評価を行い、相続財産とする必要があります。金は上場株式のように価格が毎日変動しますので、相続開始日(被相続人が亡くなった日)を基準として1gあたりの買取価格を確認して計算します。
Aさんと弟は帰り道に、
「なんで時計が貸金庫の中にあるんだよ」
「気持ち悪いなぁ。彼女からのプレゼントかよ」
「マンションってなんなんだよ。もしかして誰かまだ住んでるんじゃないか?」
「キーホルダーに付いてたあの鍵かなぁ」
「とにかく明日にでも一緒に行って確かめようぜ」
そんな会話をし、その日は別れました。なんだか亡くなった父親の知らない部分を突き付けられたようで、「母親が認知症でよかったかもしれない」ふとそんなことを思いました。
なお、貸金庫の中にはマイナス財産も入っている場合があります。借用書や連帯保証人になっている保証債務の契約書などがあった場合、相続税の計算でプラスの財産から差し引く債務控除の対象になります。