以前は、通夜と告別式を行う「一般葬」が主流でしたが、コロナ禍以降、葬儀の多様化が進みました。海洋散骨も新たな選択肢のひとつ。家族の一部は納得して散骨を行うも、古いしきたりを重んじる親族からの理解が得られず、トラブルに発展するケースもあるようで……。本記事では、Aさん家族の事例とともに変化する弔いのかたちについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
「死んだ妹が可哀そうだ!」67歳年金暮らし母の終生の悲願〈海洋散骨〉をした38歳娘…理解を得られない親族が、船上で肉弾戦【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

お骨の保管方法も多種多様の時代

火葬後の故人の供養の方法としては、お墓や納骨堂といったところを思い浮かべますが、近年ではお墓が遠方であったり、お墓を建てる経済的余裕がなかったりといったケースも少なくありません。そこで「手元供養」という供養の形式が注目されています。

 

「手元供養」とは、遺骨のすべて、または一部を、お墓などではなく自宅などの身近な場所に保管して供養することをいいます。ミニ仏壇などを設置して自宅に保管したり、ペンダントなどに入れて身に着けたり、など、さまざまな供養の方法があります。近年では、核家族化も増えてきたことから、「墓じまい」やこういった「手元供養」をする人が増えています。

 

また、ほかに「自然葬」というのもあります。自然葬も墓地や墓石を用いず、「自然に還す」という考え方に基づいた埋葬方法です。自然葬には、樹木葬、散骨(海や山)、宇宙散骨などがあります。しかしながら、価値観の違いから親族から反対される恐れも多々あるのが実情です。

母親の悲願「私の骨は海に撒いて!」

Aさんは都内で働く38歳の独身女性です。実家は関東地方ですが、通勤が大変なので、大学を卒業したあとは就職を機に都内に1LDKのマンションを借りて長く住んでいます。

 

先日、癌を患っていた年金暮らしの母親が67歳で亡くなってしまいました。この母親はもともと海の見える田舎町で生まれた人ですが、Aさんの父親と大恋愛の末、関東に出てきて嫁に入った人です。ですが、結婚には母親の実家が猛反対だったため、実家とは縁を切って結婚したような形です。

 

結婚後はAさんの父親の両親との同居でしたが、舅の介護や姑のいじめで、母親は大変苦労したようです。すでに父親の両親は他界してしまいましたが、結婚後は一度も実家に帰ったことのない母親は、病床でAさんに、

 

「田舎の海が見たい」

「お義母さんと一緒のお墓なんて絶対にイヤ! 私のお骨は田舎の海に撒いて!」

 

と何度も訴えていました。Aさんは、母親の最後の願いを叶えようと、散骨式について調べ始めました。

散骨式の方法と費用

「散骨」とは、パウダー状にした遺骨を海や山林、空などに撒く方法で行います。散骨は法的に禁止されてはいませんが、散骨を禁止している海域もありますので、専門の業者に問い合わせたほうが確実でしょう。散骨の費用は、業者に代理で散骨してもらう数万円のコースから、チャーターしてもらった船に親族で乗り込み散骨する数十万円のコースまでさまざまです。業者によって内容や価格も違いますので、比較して調べましょう。

 

Aさんは父親の了解を得て、船上での散骨式を実施することに。