同じ企業に長く勤めるほど「税金」がお得だった
来年度の税制改正に向けた議論が本格化するなか、退職金の優遇税制に関しても見直しが検討されています。
いわゆるサラリーマン増税です。政府はこれまでサラリーマンに対して直接的な税率の増加は行っていませんでした。しかし、所得控除を大胆にカットし、実質的な増税を行っていました。今度は退職金の控除枠が削られるかもしれません。
退職金は、一般給与と異なり、元々長年勤めあげてきた社員を労う側面があるため、控除が優遇されていました。
具体的には、
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
の控除額が設けられ、さらに退職金の額から上記の控除額を引いた金額に1/2が控除されるため、所得は1/2以下になっていました。
勤続年数に関係なく一律に…雇用の流動化を図ることが目的か
今回、見直しが図られているのは、上述した控除額の勤続年数に関する部分です。
現在のルールでは、同じ企業で長く勤めるほど税金が軽くなる仕組みになっています。しかし、終身雇用を前提としたこのルールが昨今の転職が当たり前になった社会では、雇用の流動化を妨げる一面もあります。退職金制度があるために、一つの会社にしがみつく、リストラができないといった事情もあるようです。
そういった背景があるのは事実ではあるものの、コロナで緊迫した財政を立て直すためには、何かしらの増税措置を打ち出さないといけないのだと思います。
アメリカには退職金制度はないが…
実は、退職金優遇税制は日本特有の制度です。アメリカでは、退職時に報酬を支払うケースもありますが、あくまで解雇紛争の解決手段に限られています。
退職金は生命保険と並んで、日本の退職後の生活を支える制度です。これがなぜ日本特有なのかといえば、一言でいえば日本が貧しいからでしょう。
アメリカなど欧米では退職金の制度はありません。しかし、その代わりに充実した年金制度があります。
公的年金、私的年金、企業も負担する401Kという加入が任意の年金積立制度があります。
このように年金制度が充実している、国が豊かであるから退職金という制度が必要ないのです。
一方、日本はどうでしょうか? 30年間サラリーマンの給与が上がらない国で今度は退職金が徴収されます。
これではGDPも上がらないでしょう。貧しい島国が、これからますます貧しさを増していくように思えてなりません。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾