税制改正大綱で検討されている退職金増税…年金が充実していて退職金のない“豊かな”国「アメリカ」と「日本」との違いとは

税制改正大綱で検討されている退職金増税…年金が充実していて退職金のない“豊かな”国「アメリカ」と「日本」との違いとは
(画像はイメージです/PIXTA)

アメリカをはじめ、欧米諸国には退職金の優遇税制がありません。日本の企業の多くには退職金制度がありますが、与党は税制改正大綱の取りまとめにおいて退職金控除制度の改正を盛り込むことを検討しています。退職後の生活を支えてきた日本特有の制度を脅かす事態が起こっているといえます。国際税務のプロフェッショナルが日米の税金問題をわかりやすく解説します。

同じ企業に長く勤めるほど「税金」がお得だった

来年度の税制改正に向けた議論が本格化するなか、退職金の優遇税制に関しても見直しが検討されています。

 

いわゆるサラリーマン増税です。政府はこれまでサラリーマンに対して直接的な税率の増加は行っていませんでした。しかし、所得控除を大胆にカットし、実質的な増税を行っていました。今度は退職金の控除枠が削られるかもしれません。

 

退職金は、一般給与と異なり、元々長年勤めあげてきた社員を労う側面があるため、控除が優遇されていました。

 

具体的には、

 

20年以下 40万円×勤続年数

20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

の控除額が設けられ、さらに退職金の額から上記の控除額を引いた金額に1/2が控除されるため、所得は1/2以下になっていました。

勤続年数に関係なく一律に…雇用の流動化を図ることが目的か

今回、見直しが図られているのは、上述した控除額の勤続年数に関する部分です。

 

現在のルールでは、同じ企業で長く勤めるほど税金が軽くなる仕組みになっています。しかし、終身雇用を前提としたこのルールが昨今の転職が当たり前になった社会では、雇用の流動化を妨げる一面もあります。退職金制度があるために、一つの会社にしがみつく、リストラができないといった事情もあるようです。

 

そういった背景があるのは事実ではあるものの、コロナで緊迫した財政を立て直すためには、何かしらの増税措置を打ち出さないといけないのだと思います。

アメリカには退職金制度はないが…

実は、退職金優遇税制は日本特有の制度です。アメリカでは、退職時に報酬を支払うケースもありますが、あくまで解雇紛争の解決手段に限られています。

 

退職金は生命保険と並んで、日本の退職後の生活を支える制度です。これがなぜ日本特有なのかといえば、一言でいえば日本が貧しいからでしょう。

 

アメリカなど欧米では退職金の制度はありません。しかし、その代わりに充実した年金制度があります。

 

公的年金、私的年金、企業も負担する401Kという加入が任意の年金積立制度があります。

 

このように年金制度が充実している、国が豊かであるから退職金という制度が必要ないのです。

 

一方、日本はどうでしょうか? 30年間サラリーマンの給与が上がらない国で今度は退職金が徴収されます。

 

これではGDPも上がらないでしょう。貧しい島国が、これからますます貧しさを増していくように思えてなりません。

 

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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