複雑で難しいイメージの強い「公的年金」。そのためか、一家の大黒柱が亡くなった際に、遺族が受け取れる公的な保障、遺族年金でさえ、その認知度は8割弱にとどまります。さらに細かなルールまで知っているか、といえば、多くの人はNO。ただ、そんな年金のルール、老後の生活設計にまで影響を及ぼすものもあるので、やはりしっかりと知っておきたいものです。
結婚生活40年の69歳夫、心筋梗塞で急逝…3年後、70歳になった妻が「遺族年金の手続き」で訪れた年金事務所で「2度悔しい」と地団太を踏んだワケ 写真はイメージです/PIXTA

年金の繰下げ中に最愛の夫が急死…3年後に仕事を辞め、年金の請求を行ったが…

年金にはいろいろなルールがあり、それにより年金額が増減したり、受け取ることができなかったりします。加藤由美子さん(仮名・70歳)も、ルールにより悔しい思いをしたというひとり。

 

さかのぼること3年前。夫・清彦さん(仮名・享年69歳)を亡くしました。結婚40周年の記念年でしたが、清彦さんは心筋梗塞により帰らぬ人に。

 

遺族年金の請求を行ったのは、夫の急逝から3年後のこと。すぐに請求しなかったのは、その時点で由美子さんは働いていて、生活費に困っていなかったことが大きいといいます。

 

――当時、67歳で、年金の繰下げ中。月20万円ほどの給与があり、ひとりで生きていくのには十分だったので、年金の請求関係の手続きは、仕事を辞めたときで十分と考えていました。

 

結局、由美子さんは70歳まで働き、仕事を辞めたタイミングで、自身の老齢年金の請求と遺族年金の請求、2つを一緒にしようと年金事務所を訪れたのでした。そこで衝撃的なことが起きたといいます。

 

由美子さん、65歳から年金を受け取っていれば、月14万円ほど、受け取ることができました。ただ月20万円ほどの給与があったので、年金月額を増やしたいと、繰下げ受給を選んでいました。繰下げ受給は、原則、65歳からの老齢年金の受け取りを、66~75歳に遅らせる制度。1ヵ月年金の受け取りを遅らせるごとに0.7%増額となり、5年で42%、10年で84%も年金が増えます。由美子、年金は14万円→19.8万円に増えている……はずでした。しかしそこで知ったのは、遺族年金の受給権が発生した時点で、年金の繰下げはストップしていたということ。つまり、年金の繰下げ効果は5年分ではなく2年分だけ。14万円→16.3万円と、思っていたよりも3万円も少ないということ。

 

さらに驚いたことはもうひとつ。遺族厚生年金が9.6万円もらえると思っていたのが、遺族厚生年金は亡くなった夫の4分の3と聞いていましたが、自身の老齢厚生年金は全額もらうことができ、遺族厚生年金はその分は支給停止。差額だけ受け取れるというもの。

 

そもそも老齢厚生年金を受け取る権利のある人の場合、配偶者が亡くなったことで遺族厚生年金を受け取るときは、「①亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3」と、「②亡くなった人の老齢厚生年金の2分の1と、自身の老齢厚生年金の2分の1の合計」を比べて、高いほうが遺族年金額になります。清彦さんの老齢厚生年金は12万円。結果、遺族厚生年金は9.6万円となります。

 

65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。由美子さんの場合、老齢厚生年金7.2万円は全額支給となり、受け取れる遺族厚生年金は9.6万円-7.2万円=2.4万円。想定のわずか4分の1しかもらえないのです。

 

――そんなバカな

 

年金事務所で思わず大きな声を出してしまったといいます。しかし担当者から「ルールなので、申し訳ありません」と冷静なひとこと。

 

2度の「そんなバカな」と叫んでしまうような苦々しい思いをした由美子さん。夫が亡くなった時点で、年金の繰下げは止まること、遺族厚生年金は自身の老齢厚生年金分は支給停止になることを知っておけば、老後の生活設計を間違えることもなかったのにと、いまでも少し怒りを覚えるといいます。

 

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[参考資料]

内閣府『生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』