いまや日本の大学生の約半数が利用する奨学金制度。進学の夢を支える一方で、卒業と同時に数百万円の借金を背負う若者が増えている。日本で最も利用されている日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の貸付残高はこの10年で2兆円も増額し、9.5兆円に膨らんでいる。国の防衛費(2024年度8.5兆円)にも匹敵する奨学金の貸付残高。こうした負担は「自己責任」として片付けられる問題なのか? 本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済の現状についてアクティブ アンド カンパニー代表・大野順也氏が解説する。
後悔しています…有名私大卒・初任給手取り月18万円の20代男性、生活苦の切実理由「心配させたくない。親にも言えません」

奨学金返済を苦に命を断つ若者も…待ったなしの状況

まず、奨学金の毎月の返済額の減額についてはJASSOに相談可能なので、無理せず一度相談していただきたいと思う。

 

ただ、Aさんも減額を考えるものの、減額すればその分返済期間が伸びるために減額できずにいる。いまの金額でも15年かかるところを20年にしたら、完済するころには40代になってしまう。もっと給料がよい会社への転職も考えたが、新卒で入社した会社を1年以内に辞める人のことなんてどこの会社も採ってくれないだろう。

 

なにより、転職した先が自分に合わなかったり、転職できずに滞納してしまったりする可能性を考えると、怖くて転職活動にも踏み出せない。親は就職を喜んでくれていたし、心配するだろうから、返済で困っていることは言い出せずにいる。いまはまだ一人暮らしだから自分さえ我慢すればどうにかなるが、この先結婚したり子どもを育てたりする日は来るのだろうか……? 少なくとも奨学金返済が終わるまでは遠い夢のような気がしている。

 

Aさんのように、奨学金返済が続く人生に絶望を感じている若者は少なくないが、責任感が強い人ほど自分で抱えてしまいがちだ。

 

奨学金返済の問題の大きさは想像を絶するもので、2023年6月18日付の朝日新聞の記事には「2022年の自殺者のうち“奨学金の返済苦が原因”で自殺したと考えられる人が10人いた」との記述もある。また、これは氷山の一角でしかないとの指摘もあり、「結婚できない」「子どもが持てない」「貯金ができない」などのレベルではなく、もはや「自殺する」という最悪の結末を迎えている現状がある。

奨学金の返済に悩んだら

大学進学という夢や希望のために借りた奨学金の返済に悩み、命を落とすという悲劇は二度と起こってほしくない。しかし、実際に奨学金についての相談窓口に寄せられる多くの返済者は、毎月の支払額を調整したり、事情があるあいだは返済を休んだりできることを知らず、かなり思い詰めた状態にある。

 

借りたお金は「奨学金」という名前が付いているとはいえ、当事者にとっては実質「借金」であり、その返済に悩めば、情報を適切に得られなくなるほど周りが見えなくなってしまい、身近な相談先も思い当たらずに追い込まれてしまうということだろう。

 

そこで、奨学生の方々には、奨学金返済に悩んだら、次の3点を検討してほしい。

 

1.奨学金の貸与元に、返済について相談する(毎月の返済額の減額、一時的な返済休止など)

 

2.いま働いている会社の担当部署に、奨学金返還支援制度が利用できないか確認する

 

3.奨学金の代理返済支援を行っている企業への転職を検討する

 

以上のように、解決策は複数ある。まずはひとりで悩まずに相談機関に頼ることが自身を守るためには大切だ。また、どうしても返済ができず、自己破産などの債務整理が必要なケースなど、個人での判断には限界があるため、弁護士等、法的機関に相談するべき案件があることも知っておいてほしい。