大学生の2人に1人が利用する奨学金
JASSOの調査によると、1990年代半ばまで全大学生の20%程度であった奨学金利用者は、22年度時点で約55%に達し、過去30年で大きく増加した。大学進学率の上昇や学費の高騰、さらに各家庭の収入格差を背景に、日本の大学生のおよそ2人に1人が奨学金を利用している計算になる。
また、年間収入が300万円未満の世帯では、約8割もの学生が奨学金を利用している状況。これは、所得の低い世帯にとって、奨学金が所得による教育の格差を埋めるための重要な手段であることを示している。しかしその結果、多くの学生が卒業と同時に数百万円の負債を抱えることになり、生活設計に大きな影響をおよぼすことにもつながっている。
JASSOの統計によると、奨学金の平均借入額は約310万円。毎月の返済額は約1万5,000円で、その返済期間は15年間にもおよぶ。大卒新入社員の平均的な手取りは約18万円※1であることから、約1万5,000円の返済額のウエイトがいかに大きいかは想像に難くないだろう。
「後悔しています。奨学金を借りたときには想像できていなかった」
都内に住むAさん(20代・男性)も奨学金を借りて大学進学を果たした1人だ。勉強の甲斐あって有名私立大学の理系の学部に合格し、入学金を支払う段階で親とも相談して奨学金の貸与を受けることを選択した。
それまで学習塾の授業料など、親にはかなり負担を掛けていたと感じており、これからはできる限り親孝行すると誓っての判断だった。学力基準や家計基準は平均的だったため、比較的借りやすいと聞いていた有利子の「第二種奨学金」で、4年間で約400万円の奨学金を借りることになった。
いい大学に入ってしっかり就職して若いうちから頑張って働けば、問題なく返済できるだろうと考えていた。正直、実際に初任給でいくらもらえるのか、返済期間はどれぐらいなのか、というところまでは深く考えていなかった。18歳の若者にとっては無理もないが、当時はこれから始まる大学生活に胸を躍らせ、いい方向にしか考えていなかったのだ。
しかし、この軽い気持ちで設定した返済計画が、Aさんの首を絞めることになる。Aさんが就職した会社は、初任給が23万、年収は276万円程度。日本の新卒1年目の年収としては平均的な水準であるが、前述のとおり、手取りにすると月18万円程度であった。
初めての給料日、給与明細を見たAさんは、「差引支給額」に記載されている金額をみて、思わず自分の給与明細かどうかを疑ってしまったと話す。この金額から家賃や食費、光熱費などを支払って、そのうえで奨学金の返済が始まってしまったら、手元にほぼ残らないのではないだろうか……。そんな不安と焦りで頭がいっぱいになり、生活費を切り詰めなくてはならないのだということを、ここで初めて思い知らされたのである。