80歳父が認知症で老人ホームに入居…年金振込日に起きた異変
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、15歳~64歳の生産年齢人口において推計146万人、50人に1人がひきこもり状態だといいます。中高年に焦点を当てると、引きこもり状態になったきっかけとして最も多いのが「退職」で37.3%。「新型コロナウイルス感染症の流行」29.3%、「病気」17.3%、「介護・看護」11.5%のほか、「特に理由はない」も13.4%ほどありました。
実家に戻ってから20年ほど。すでに健康となった健一さんですが、今も実家暮らし。すでに母親は他界し、父親との二人暮らし。自身の貯金が500万円ほどあるといいますが、生活費はもっぱら父親の年金。2ヵ月に1回振り込まれる年金は46万円。1ヵ月23万円。振込口座から引き下ろすのは健一さんの役目で、20万円は健一さんのポケットに入り、残りが生活費。健一さん、月10万円の小遣いで、悠々自適な生活を謳歌しています。
――父には年金があるし、貯金だって2,000万円くらいある。いずれ相続するんだし、もう働く必要なんてないじゃないですか
居心地のいい実家での生活に慣れきってしまった健一さん。いまさら仕事復帰などありえないといいます。しかしそんな生活が激変する出来事が。
80歳になった健一さんの父親。認知症となり施設に入ることになり、父の財産は成年後見人が管理することになったのです。健一さんがいつものように年金振込日にお金を下ろそうと銀行に行くと、キャッシュカードが使えず、窓口に詰め寄ると、「申し訳ありませんが、ご家族では対応できません」とひと言。「えっ、私は息子ですよ」と言い返すも、「後見人が付いてキャッシュカードが利用できなくなっているんです」という説明。
――畜生!
怒りのあまり声を荒らげてしまったという健一さん。父親の年金や貯金があてにならないなら、自身の貯金を取り崩していくしかありません。「父親が死んでくれたら……」そんな恐ろしい考えがよぎることもあるといいます。
成年後見制度は、「精神上の障害により判断能力が不十分であるため法律行為における意思決定が困難な方々について、本人の 権利を守るために選任された援助者(成年後見人等)により、本人を法律的に支援する制度」(厚生労働省資料より)。法定後見制度の申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などで、本人の判断能力に応じて「後見」、「保佐」、「補助」の 3つの制度があります。
成年後見制度の利用者数は、令和5年12月末時点で24万9,484人。認知症患者の増加に伴い、右肩上がりです。また親族が成年後見人等となるのは全体の約18.1%。弁護士や司法書士、社会福祉士などの士業がなることが多いのが現状です。
この制度は本人の財産を守るための制度のため、家族が自由に財産を管理・運用・処分できず、不便を被るのも事実。専門家が成年後見人となると毎月2万~6万円程度の報酬の支払いが発生。また成年後見制度を利用すると、本人の判断能力が回復したと認められない限り、制度は途中でやめられません。つまり報酬は本人が亡くなるまで支払い続けなければなりません。