3人が「自分が持ち主だ」と主張し、訴訟に
ここからが本題です。白熱しているのはオークションだけでなく、このボールの持ち主たちです。
持ち主たちというのは、今はまだ一人ではなく、自分が持ち主だと3人が主張し、訴訟に発展しています。
ホームランボールを掴んで離さなかったのはクリス・ベランスキ氏とのことですが、彼に力ずくでボールを奪い取られたと主張しているのが18歳のマックス・マタス氏。さらに、最初にボールを掴んだのは自分であり、手すりを超えてジャンプしてきたファンに圧迫され、ボールが手から離れたと主張しているのがジョセフ・ダビドフ氏です。
持ち主が定まっていませんが、裁判所はオークションを実行しても問題ないとし、今回のオークションが行われました。なんともアメリカ的です。日本では考えられないですね。
MLB(メジャーリーグ)ではボールを取った人がそのボールの持ち主になるという規定があります。ドジャースは30万ドル(4,320万円)を提示し、ベランスキ氏にボールを球団に渡すよう交渉したようですが、ベランスキ氏はオークションにかけたほうが儲かると判断し、球団には渡さなかったようです。
今回の金額からすると、例え3等分したとしても一人150万ドル(2億3,000万円)弱になります。
過去にバリー・ボンズ選手が打った73号のホームランボールをふたりの観客が取り合いになったことがありますが、このとき裁判所は売上金をふたりで分ける判決を下しています。
ボールを売却しても半分は税金で持っていかれる
しかし、アメリカでは容赦なく税金が追っかけてきます。連邦税37%、もしカリフォルニア在住であれば、州税の最高税率13.3%がかかるので、税率は合わせると50.3%になります。手取りは74万500ドル(1億1,000万円)になる計算です。半分以上が税金にもって行かれるわけです。これには税理士としても節税対策の打ちようがありません。
かつて、元ニューヨーク・ヤンキースのデレク・ジーター選手が、ある記念ボールをキャッチしたファンから譲り受けた際、彼はファンにフリーチケットとサイン入り野球道具を渡し、交換したことがありました。このようなことはスポーツ界ではよくある話ですが、IRS(内国歳入庁)はこれを所得であるとし、申告せよと厳しい措置をとるのでしょうか。
アメリカの税法上、この物々交換には通常課税となります。2018年の税法改正で仮想通貨の交換も税金が発生するようになりました。コイン等の交換は以前は非課税とされていましたが、アメリカでは交換によって非課税になるのは不動産のみとなっています。
高額の弁護士報酬をどうする?
話が横道にそれました。筆者は裁判費用についても注目しています。日本では弁護士費用は必要経費として所得から控除されますが、アメリカはそうはいきません。
最近の法改正で所得控除が難しくなっているからです。たとえば40%の成功報酬だとして、直接40%が弁護士事務所に支払われたとしても、原告は100%の金額を受け取ったとされ課税されるケースが多いのです。アメリカで裁判する場合は、弁護士費用の支払い方法などをチェックしなければなりません。
高額の弁護士費用を控除できるかどうかも大きな問題です。オークションの額で盛り上がるだけでなく、どのような弁護士報酬の支払い方をすれば、所得から控除できるのかを検証するという視点を日本のメディアにも持ってもらいたいと思います。
ドジャースファンのみならずメジャーリーグファンとしては、一獲千金を狙うファンに対して裁判所がどのような判断を示すのか、注目したいと思います。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾