投資だけではFIREできない理由
「悪夢だ……」
床から起き上がれないまま思わずつぶやいた。小鉄が顔を覗き込んでくる。ひげがあたってくすぐったい。
「ギリギリの資産でのFIREは、このように精神的に厳しいものがありますね。他にも結婚して子供ができたりとか、ライフイベントによって大きく出費が変わるケースがあります」
「未来の予測を正確になんてできないものね……」
「もちろん何年も暴落がおきずに、順調にそのまま資産が増えていくケースもあります。しかし、こればかりは神のみぞ知るといったところです」
この発言に、日々勉強している僕は反論したくなった。なぜなら暴落は恐れるものではないと、動画でよく聞いていたからだ。
「でもさ、いつまでも暴落が続く可能性は低いって聞いたよ? この人もそれを知っていれば、じっくり待てたんじゃないかな?」
「確かに、過去に実際にあった事例だと2000年のITバブル崩壊と2001年の同時多発テロの時は45%減少し、6年で回復。2007年の世界金融危機・リーマンショック時は50%減少し、5年で回復しました。ざっくりピーク時より20%以上下落した場合、回復までに要する平均期間が5年と言われています」
「そうだよね! それなら、別に焦らなくてもよかったんじゃないかな? いずれ高確率で回復するんだし」
「それは、こうして後から振り返っているから思えることです。あくまで〝今までそうだった〟という話でしかありません。実際に資産が復活するかなんてわからないし、もしするとしても、それは10年後かもしれません。そんな状態で、ケロッとしていられる方が珍しいです」
確かに、当事者になったら気が気でないかもしれない。しかも、実際に資産が減ってる間はそこから得られる配当金や取り崩す金額も減るわけで、その分生活も窮屈になる。ギリギリで想定していたならなおさらそうだ。
「実際、真司さんもこの状況に耐えかねて結局アルバイトをはじめ、その後再就職をしました。結果的に1年間のFIRE生活がいいリフレッシュになったのと、定期的な収入があるありがたさが身にしみていて、FIRE前よりも楽しく働けているようです」
「それは良かった……のかな? まあでも、真司さんはもっと慎重になればよかったのにね。暴落を想定して、もっと資産を貯めてからFIREするとかさ」
「ここが、非常に難しいところなのです。早くFIREをしてもその生活がダメになってしまっては意味がない。かといって盤石を求めると時間がかかりすぎてしまう。これが〝投資だけではFIREできない〟一番の理由です」
株式会社HF 代表取締役
ヒトデ
※本記事は『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。