結婚後も単身赴任…「夫婦水入らず」のために定年退職を選んだが
今年の春、定年を迎え会社を去ることを決めた内藤隆さん(仮名・60歳)。大学卒業後、大手銀行に就職。20代のころから東京→福岡→東京→仙台→広島→金沢→大阪と転勤を繰り返し、50歳手前で関連会社に出向。60歳で定年を迎えますが、再雇用制度によりそのまま働くこともできました。しかし、内藤さんは、定年とともに会社を去る決断をしました。自宅のある東京に戻り、夫婦水入らずで暮らしたいというのが理由でした。
――30歳手前で結婚し、東京で家を買いましたが、その後、ずっと単身赴任。子育ては妻が一手に負ってくれました。家族と過ごした時間があまりに短かったので、定年を迎えたら、まずは東京に帰りたかったんです
退職時の月収は70万円。退職金は2,800万円。妻からは、蓄えが3,000万円強あると聞いていました。仮に東京に戻り、そのまま働かなくても何とかなる……そんな自信もあったといいます。
夫婦水入らずのゆったりとした生活。内藤さんが想像していたのは、そんな生活です。しかし、東京の自宅に戻ると、思いもしない提案が妻からあったといいます。
――ねぇ、これからも別居を続けない?
思わず耳を疑うセリフに言葉を失ったという内藤さん。一瞬、離婚が頭をよぎったといいます。妻は続けます。
――結婚して30年。これまで、ちゃんと一緒に暮らしていたのは3年ほど。これからあなたと一緒に暮らすイメージがどうしてもわかないの
――別々に暮らしたほうが、私たち、楽しくやっていけると思うの。どうかな?
「円満別居ってやつよ」と妻。確かに、長期休みや子どもの行事などでたびたび帰ってきていたものの、自宅に長くいるときでも1週間程度。自宅に帰ってくるというよりも、よそ様の家にお泊りする、という感覚が強く、単身赴任しているマンションに戻ると「帰ってきたー」とホッとしたのは否めません。
ソニー生命保険株式会社が全国の50~79歳のシニア男女に行った『シニアの生活意識調査2024』によると、「老後も配偶者と一緒に暮らしたいか」の問いに対して、男性は92.5%が「はい」と回答。一方で女性は77.2%と、15ポイントほどの差があります。仕事で外にいることのほうが多かった夫。定年後、夫婦円満のために別居を選ぶのもひとつの選択肢なのかもしれません。
妻からの思いもしない提案により、東京に戻ってきたものの、自宅には戻らず、ひとり暮らしをスタートさせたという内藤さん。東京で再就職を果たし、平日は仕事、週末は自宅に戻るという週末婚状態だといいます。それでも「お互い、気持ちのいい距離感にいる」と内藤さん。楽しいセカンドライフを送っているようです。
[参考資料]