72歳で完全に仕事から引退…5割以上の年金増額にウハウハかと思いきや
ただ「メリットだけある」というものはなく、多かれ少なかれデメリットはあるもの。もちろん、年金が増額になる「繰下げ受給」も同様です。
繰下げ受給をしなければよかったと、後悔の念を話してくれた渥美豊さん(仮名・72歳)。ついこの間まで現役バリバリで働いていました。
――働いているうちは年金がなくても暮らしていける。その間、年金が知らず知らずに増えていくなんて夢のような話じゃないか
そう考えて「年金の繰下げ受給」を選んだといいます。ちなみに65歳で年金をもらい始めていたら月20万円程度。72歳から受け取り始めていたら58.5%の増額で年金は月31.7万円となり、年金だけでも十分に暮らしていける……ウハウハかと思ったらそうではありませんでした。
――まったくそんなことはありませんよ。どうしてこんなことになったのか
そう後悔するのは、渥美さん自身の病気。腎硬化症により週に3日の透析が必要となり、急遽、仕事を辞めることになったのです。仕事から完全に引退し年金生活に入ったら、たまには旅行に行き、夫婦でときにアクティブに、とくにのんびりと過ごそうと話していたのに、すべては水の泡です。
――こんなことになるなら、65歳から年金を受け取って健康なうちに遊んでおけばよかったよ
このように年金が大きく増えたからといって豊かな老後が約束されたわけではありません。2019年、日本人の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳。健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことであり、以降は多かれ少なかれ病院が友だちという生活になります。
せっかく増額となった年金は医療費に……それであれば、健康なうちに年金をもらい、老後の生活を楽しんでおけばよかった、そう後悔するケースもあるのです。
もちろん最初から「老後に増大する医療費や介護費に備えて」という目的で年金の増額を狙っていたのなら、渥美さんのような状況になっても「ああよかった、年金を繰り下げておいて」となるでしょう。
一見すると、年金が増額となりメリットしかないようにみえる「年金の繰下げ」。しかし「老後を豊かにするために」という目的で増額を狙うなら後悔する可能性が高いでしょう。まずは、なぜ自分は「年金受給額を増やしたいのか」を突き詰めて考えることが、「年金の繰下げ」で後悔しないポイントです。
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