多様性の時代といわれるものの、無意識に「こうあるべき」という思い込みに縛られがち。そしてその思い込みに、人生を大きく左右されることも珍しくありません。
やっと終わりました…年金月13万円・95歳義母の介護をやり遂げた69歳嫁、「今日の晩御飯は?」と無邪気な75歳夫をみて悟った「さらなる悲劇」 (※写真はイメージです/PIXTA)

15年及ぶ「義親の介護」が終わったと思ったが

そうあるべきに捉われて生きてきたという、佐藤順子さん(仮名・69歳)。結婚して45年。その間、ずっと「長男の嫁」という立場を常に考えてきたといいます。

 

その最たるものが介護。この15年近くは、ずっと「義親の介護」に関わってきました。まず介護が必要になったのは義父。脳卒中で倒れ、右半身が不自由に。要介護3の認定となりました。すでに義母は80歳になっていたので、主に介護にあたったのは順子さん。幸い、義実家は車で10分の距離。毎日車で通い、介護サービスも利用しながら義父の介護にあたりました。

 

5年に及ぶ介護から解放されたあと、次は義母の世話です。このとき義母は85歳。昔は元気が取り柄のような人でしたが、さすがに年齢も年齢。段差の多い自宅でひとり暮らしを続けるのは大変なことでした。

 

順子さんの夫は、「無理をすることはない。施設を利用しても構わない」といってくれたとか。しかし順子さんは、義母がそれを望んでいるかは疑問だったといいます。

 

――不便でも住み慣れた我が家にいたいと思いますよね。私ならそう思いますから

 

90歳を越えるころには、ひとりでの歩行も不安になり、ほぼ義母に付きっきりの生活。寝泊まりも義理実家、ということも多かったといいます。そんな献身的な順子さんに義母は「年金月に13万円くらいしかないから、これしかあげられないけど」と、よくお小遣いを渡そうとしたとしたとか。「お義母さん、私、お小遣いをいただく年齢じゃないですよ」と笑いながら受け取り、「お義母さんの貯金箱に入れておきましょうね」というのがお決まりのパターンだったとか。

 

――実親が早くに亡くなったこともあり、そのぶん、長男の嫁としての役割は十分に果たせたと思う

 

義親の介護はトータル15年で終わりを迎えます。「やっと終わった」という気持ちも強いという順子さん、すでに69歳と70代手前。65歳を過ぎてからの介護は本当に大変だったと振り返ります。また義親に付きっきりだったため、夫との時間はほとんどありませんでした。6つ年上の夫は75歳、後期高齢者の仲間入りです。

 

――元気に過ごせるのは今のうちかもしれない。夫婦でできなかったことをしよう

 

しかしその思いは呆気なく終わりを告げます。

 

ある日、「なあ、夜ご飯はまだか」と無邪気に聞いてきた夫。ついさっき、夜ご飯を一緒に食べたにも関わらず、です。

 

――えっ、さっき一緒に食べたでしょ。さんまの塩焼き

 

「そうだったか……」と、ちょっと納得のいかない表情の夫の顔をみて、順子さん、悟ります。後日、夫を病院に連れて行った結果、認知症と診断されたといいます。

 

認知症の有病率は、70代前半で3.9%、70代後半で11.7%、80代前半で16.8%、80代後半で35.0%と年齢とともに上昇していきます。

 

今度は「妻として夫を支えるべき」と考えながらも、いつ終わるかわからない介護生活に軽い絶望感を覚えているといいます。

 

[参考資料]

内閣府男女共同参画局『令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究』

首相官邸資料『認知症年齢別有病率の推移等について 』