高齢者の住まいとして、有力な選択肢となっている老人ホーム。その種類は多彩で、施設によってさまざまな特徴をもっています。そのため、しっかりと吟味しないと、まさかの事態に直面することも珍しくはありません。
悔やんでいます…杖を突きながら歩く年金15万円・81歳母、「老人ホーム入居」6ヵ月後の「変わり果てた姿」に58歳ひとり娘が涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

ホスピタリティあふれる老人ホームに入居…半年後の母は

そんな多種多様な老人ホーム。入念に比較検討してみたものの、失敗といわざるを得ないことも珍しくはありません。

 

東京在住の中田久美子さん(仮名・58歳)。九州の実家では83歳になる母親がひとり暮らしをしていました。転機は自宅の玄関先で転倒、骨折をしたこと。入院→退院後、歩行が少々不便になり、杖が必須に。段差も多く、階段もある実家では暮らしていくのに不便だし、また転倒するリスクも高い。そこで老人ホームへの入居を勧めたといいます。

 

久美子さんが帰省の際に3ヵ所ほど施設を見学し、立地と雰囲気が気に入った施設への入居を決めたふたり。

 

――設備は少々古臭さがあったんですが、働いている方の雰囲気が一番良かったです。ホスピタリティ!? すごく感じて。費用面でも年金が月15万円ほどの母にはピッタリでした。

 

安心して東京に戻り、そのあと母親とは定期的に電話やメールをしていたという久美子さん。充実した老人ホームライフを送っていると思っていたといいます。

 

再び、母親が入居する老人ホームを訪れたのは半年後。車椅子に乗った母は、ひとまわり小さくなったような気がしました。さらに衝撃的な事実を知ることになります。

 

老人ホームに入居する前は杖を使い歩くことができた母ですが、いまでは歩行が難しくなっていたのです。

 

――もう、自分の足で歩くのはしんどいの

 

と母。「えっ、なぜ?」と、中田さんは驚きを隠せません。

 

そこにはリハビリに関して落とし穴があったのです。たとえば在宅生活に復帰できるようにリハビリを行う老健は治療の場であり、身体機能の回復を目指します。

 

一方、有料老人ホームは生活の場を提供する施設であり、生活のなかでリハビリが行われます。これを「生活リハビリ」と呼び、ベッドから体を起こすことからレクリエーションに参加することまで、すべてがリハビリと考えます。ただリハビリの専門職が常駐しているとは限らず、機能回復を目指すものではありません。むしろホスピタリティを重視し、歩ける人でも移動は車椅子ということも。

 

人手不足のなか、入居者一人ひとりのケアに割く時間が限られている場合があります。中田さんの母親のように自力でなんとか歩けるが……という人は転倒のリスクもあります。事故防止のためにも車椅子を積極的に使用することも考えられるでしょう。そうすると歩行能力は落ち、自力で歩けなくなる……そのようなケースは珍しくないのです。

 

有料老人ホームのなかには、リハビリを強化している施設もあり、そのような施設では専門の資格を持った職員が常勤。機能回復も期待できるでしょう。「ずっと、自分の足で歩けるように……」と考えるなら、リハビリ強化型の有料老人ホームを選ぶのも手です。

 

親切なスタッフにほれ込んで決めた老人ホーム。本当にこの選択が母のためになったのか、不勉強だった自分のせいで母は歩けなくなったのではないか……どんなに涙を流し、後悔したところで時間は巻き戻せません。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年社会福祉施設等調査』