「別の部署に異動したい」「もともと〇〇志望だった」など、部下が現在の部署とは別の場所でのキャリアビジョンを持っているケースは少なくありません。もしそうした意向を聞いた際、上司として課題となるのは、現職の業務にどう向き合わせるかでしょう。部下の意向にどう対応すべきか、キャリア支援をどう実現すべきかが大きなポイントとなります。本記事では、外資系メガファーマで営業部門に所属していた小川隆弘、氏による著書『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版 ブランディング)から一部を抜粋・再編集し、社内でのキャリア異動希望をもつ部下の事例を紹介します。
部下「いつか人事部に異動したい」…外資系メガファーマ・営業部の上司による“驚きの返答” (※写真はイメージです/PIXTA)

社内の別の部署へ異動希望がある部下

社内での強いキャリア希望がある場合の事例です。「人事で採用をやりたい」「広報にいきたい」「マーケティングをやりたい」などの希望をもつ部下です。社外での希望がある場合は、「将来は辞めるつもり」に分類されます。

 

私は営業部門でしたので、これらの希望を現職のモチベーションに転嫁する工夫でキャリア支援をしました。希望どおりの部署・職種に異動した部下も多くいました。たとえば、「人事を希望されてるのですね。希望どおりになるかどうかはなんともいえません。適性が評価されれば可能性は出てくると思います。人事の立場でどういう人材が望まれるか、考えてみたことはありますか?」などといったことが最初のキャリア支援になるでしょう。次の対話例を見てください。

 

社内でのキャリア希望をもつ部下の事例

上司「Hさんは、将来の希望はありますか?」

 

部下「人事で採用をやってみたいんです」

 

上司「採用ですね。希望者多いですね」

 

部下「ああ、やっぱり希望者は多いのですね」

 

上司「人気ありますね」

 

部下「やっぱり人気あるんですね……私では無理でしょうか?」

 

上司「無理かどうかは正直わかりません……採用をやってみたいって、何かきっかけとか、考えてることとか、Hさんにあるのですか?」

 

部下「はい、就職活動しはじめたころから、だんだん興味が出てきて……人事の採用担当の〇〇さんのことがすごく気に入って……この会社を選んだ理由もそうなんです」

 

上司「そうだったんだね……で?」

 

部下「はい、〇〇さんの仕事ぶりが、ずっと心のどこかですごく気になってて……」

 

上司「うん……」

 

部下「それで、時間があるときなんかは、人事とか、採用関係とか、自己啓発関係の本を読むようになって……いまでもけっこう読んでいるんです」

 

上司「へえー、Hさん、そういう本を読んでたんだ」

 

部下「はい。私、本が好きで、小説とかエッセイも読むんですけど、採用とか、人事関係とか、自己啓発関係の本がいちばん読んでいて楽しいんです。やっぱりこういうのって、私は根っから好きなんじゃないかなぁって、だんだん思うようになって……」

 

上司「そうなんだー」

 

部下「半年くらい前に社内公募してたじゃないですか。実は応募してみたんです。ダメでしたけど……やっぱり、私では無理なんでしょうか」

 

上司「可能性はゼロではないと思いますよ。いまちょっと聞いてると、Hさんかなり強く希望されているんですね」

 

部下「あっ、はい」

 

上司「なるほどね。採用担当ですね……ご存知だと思いますが、人事関連はけっこう希望者が多いんですよ。評価もおそらく重視されるでしょう。ある程度の業績や適性が認められると、候補として土俵に乗ることができると思います。可能性はあると思います。ですが、いますぐというのはむずかしいです。それはご理解いただいてますか?」

 

部下「はい、それはわかっています」

 

上司「じゃあ2〜3年後を目標に、人事の採用担当になるためのロードマップを考えてみませんか?」

キャリア希望を現職のモチベーションに転嫁する

社内ですから、すべての社員が希望する部署にいけるわけではありません。ただし、昨今では本人が希望する職種を優先的に考慮する企業が増えている印象をもっています。

 

いずれにせよ、部下が強い意志をもって明確なキャリア希望がある場合は、上司は真摯に誠実に対応しましょう。同時に、そのことをモチベーションのひとつにして、現職の評価を高める1on1を実践しましょう。

 

 

小川 隆弘、

キャリアコンサルタント、コーチ、研修講師

 

※本記事は『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。