
堰を切ったように語り出した話さない部下
自分から話そうとしない部下Dさんと私が1on1をしたときのことです。積極的に話そうとしないDさんへの対応に窮し、困り果てた末、ふと頭に浮かんだある質問を苦し紛れにしてしまいました。それがその後の1on1の進め方に大きな変化を及ぼすことになります。Dさんにした質問がこれです。
「Dさんにとって、いままでの営業のなかでいちばん大成功だったなぁって思うこと、よかったら話してもらえないかな?」
困ってしまい、ふいに口に出した質問でした。ところがその質問に対し、これまで話そうとしなかったDさんが急に熱く語り出したのです。それは20分ほど続きました。
このとき私は2つのことに気がつきました。1つ目は、「ビジネスの成功例を語りたい」という気持ちは部下にとって大きいのではないか、ということ。2つ目は、他人がどのように感じていても、その人なりのプライドをもっていることです。これは自己効力感につながります。すべての人がそうかどうかは別にしても、Dさんには少なくともあてはまっていたのです。
それ以降、部下に成功例を聞き出すようにしました。ただし、あまり話題がなく沈黙が多くなったときに限り、聞くようにしたのです。1〜2年かけて部下一人ひとりに成功体験を語ってもらったところ、おおむねそれまでよりも多くを語るようになりました。相関があるかどうかはわかりませんが、営業所の実績は好転していくことになります。
語りをいっそう引き出す工夫
成功例を引き出せたことで、その語りをさらに引き出す工夫をしました。成功例を次のように3段階に分けて語ってもらうように試みたのです。
1.これまでの職業経験のなかでのベストな成功例。
2.ここ2〜3年で印象に残った成功例。
3.ここ半年以内の成功例。
誰でも小さな成功例をたくさんもっています。そのことに気づいていない部下も多いことがわかりました。
私が「〇〇さんはよくこの工夫をしたよね」と思っていたことを素直に口に出してみたところ、部下が「自分なりの工夫を僕もしていたんだ!」と気づいたこともありました。つまり、本人が言語化していないため、本人特有のコンピテンシー(成果につながる行動特性)発揮の例であることに気づいていなかったのですね。過去の成功例を聞く場合は、本人が忘れていることもあるため、本人が取った行動を語ってもらうようにします。
行動の結果で成果となり感情がわき、意図や要因を語ってもらえるからです。過去の成功例の場合は、行動を思い出してもらうことが必要な場合もある点も申し添えたいと思います。
小川 隆弘、
キャリアコンサルタント、コーチ、研修講師
※本記事は『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。