タワーマンションの将来
タワーマンションは「地上20階以上、高さ60m以上」であれば成立するかというと、そう簡単な話ではありません。タワーマンションに期待する資産性とリセールバリュー、ステイタス性、利便性をすべて叶えるためには次のようなポイントが備わっていることが必要です。
・人口が増え続けている大都市のど真ん中にある
・将来にわたって生産年齢人口が分厚い都市にある
・職場に極めて近接している
・区分所有者は高所得者が大半で、高額な修繕費の負担ができる
・管理組合が機能している
・区分物件が投機対象にされていない
東京都港区にある1971年竣工のタワーマンションはこれらの条件が備わっていて、築50年を過ぎた今も驚くほど高額な価格を維持しています。また外国の例ですが、ニューヨークにある1884年竣工のダコタ・ハウスはいまも超高級集合住宅として成立しています。これは厳しい入居審査があることによって適切に維持されているからです。これと同じことを東京都以外に期待しても実現は困難です。人口が急速に減少していく社会では、「街全体がタワーマンションを維持していく力」が弱いからです。
地方都市の駅前タワーマンションは個人の家計だけでなく、都市計画にとって大きなリスクです。「タワーマンションができる→人口増→税収増」という流れは最初こそありますが、いずれその駅前でも人口が減り税収は下がります。その郊外ではかつて開発したニュータウンが高齢化によって空き家化が進行します。限界集落と化したニュータウンには学校や病院などのインフラが消滅し、より人口が減るでしょう。
駅前のタワーマンションは人口減とともに資産価値が下がることが想像できます。修繕積立金が不足していると管理組合が機能せず、さらに資産価値は低下。相続とともに賃貸に出されることが増えますが、資産価値が低いため家賃を高くすることができません。新築時に住んでいたような高所得者はいなくなり、高齢者と低所得者が住まう「スラム」と化していくかもしれません。
駅前を住宅地にすると、商業機能は大きくなりません。あくまでも住宅地としてのサイズに収斂されるのです。その住宅地が荒廃し出すと駅前は目も当てられない事態になってしまいます。
このような危機感を強く持っているのが神戸市です。
タワーマンション建設を規制した神戸市
2022年7月から、神戸市はJR三ノ宮駅周辺でマンション建設を規制しています。
・JR三ノ宮駅周辺においてマンションが建設できなくなる
・その周辺部分も、住宅部分の容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)が最大400%までに制限される(敷地面積1,000m2以上の場合)
実質的な「タワマン規制」とされる内容です。これは神戸市が三ノ宮駅前の将来の荒廃を危惧していることを理由として挙げています。JR三ノ宮駅から中央区全体は神戸でもっとも華やかな商業地、観光地です。買い物やグルメを楽しめる、神戸らしさを誇るお洒落な繁華街であることに異論はないでしょう。しかし神戸市もまた人口が減り続けている都市です。
その場所にタワーマンションが建ち過ぎると、短期的には人口が増えますがやはり減少に転じていき、高齢化が進みます。修繕積立金が不足し、適切に維持できなくなった建物が「廃棄物」として神戸市のど真ん中に放置されるのではないかと神戸市長が説明しています。また、これからの時代は「新しく作り続ける時代」ではなく、「いまあるもの(住宅ストック)を活用する時代」ではないかということも、神戸市が提言しているのです。人口約149万人の大都市であるはずの神戸市が、都市計画上の危機感を強く表明していることに、多くの人が驚きました。
地方においてタワーマンション購入を検討している個人は、もう少し視野を大きくとってリスクを精査する必要があるでしょう。滅びゆく街と運命をともにする必要はないのです。