「終の棲家なら戸建て、タワーマンションなら名古屋市の物件」
夫FさんはFPに持論をまくしたてます。
「僕は、買い物はリセールにこだわるんです。浪費しているつもりはなくて、将来高く売れるものを選んで買っているんですよ」そう言って自分がいま所有している高級ドイツ車を例に出します。「5年落ちの車もこの値段で売っているほど人気車種、人気カラーなんですよ」と、FPに見せたのは中古車情報サイト。それを見てFPは怪訝そうな顔で答えます。
「それ、売価ですよね。その値段でFさんが売却できるわけではありません。売却価格と中古車販売価格とはかなりの乖離があります。中古車の卸売りの相場は自動車販売業界の人だけが閲覧できるイエローブックというものがあるので、業者にそちらを見てもらったほうがいいですよ。お言葉ですが、一般的に輸入車の売却はFさんの想像以上に安いです。名古屋まで通勤で走行距離が多いのもマイナスになります」
ため息をつく妻Kさん。「タワーマンションはわたしたちの家計にとって、FPとして勧めますか?」と妻Kさんが質問します。
「タワーマンションとはいえ、安いので買うことはできるでしょう。返済も問題ありません。しかし、家計の流れを計算すると、老後にもう一度住宅を買うのは不可能です。資産価値が低く売却が難しいうえに終の棲家にするには、タワーマンションは高齢者に不向きです」とFP。「もしこれが東京都心だったら、タワーマンションはライフプラン上、有利に働くことがあります。でもここは岐阜市ですから……」
納得する妻KさんにFPが続けます「終の棲家なら戸建て、タワーマンションなら名古屋市の都心の物件を買ったほうがいいかもしれません」。
しかし1億円を超える名古屋市のタワーマンションを買うには、2人の世帯年収では極めて難しいのが現実です。キャッシュフロー上も老後資金が不足するため、実現は不可能です。FPの話を聴いて、妻Kさんは戸建ての検討で間違いないと思ったものの、夫Fさんは納得いかない様子。
「タワーマンションじゃなきゃ家は欲しくない……」と絶望します。
論理的に冷静に損得を考えられない状態では、この夫婦に住宅購入は早いのかもしれません。住宅購入は自動車と異なり、家計に後戻りができない影響をおよぼします。失敗は人生を狂わせてしまうのです。地方都市でタワーマンションを購入するときには、ライフプランニングを緻密に行うと同時に、街自体の将来像を想像していくことが重要です。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表