「姻族関係終了(死後離婚)」の件数が増えています。これは、死別によって元配偶者の親族との法的関係を解消する手続きを意味しています。こうした手続きを選択する背景には、どのような事情があるのでしょうか。本記事では、2つの事例とともに「姻族関係終了」のメリット・デメリットについて、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。
愛する亡夫の墓参りはこっそりと…「死後離婚」は「義父母」だけが原因じゃない。58歳嫁が最も怯えた、年金90万円・65歳無職の義兄【CFPの解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻たちの苦悩

姻族関係終了を選択・検討している事例を紹介します(本人の特定を避けるため、一部内容を変更しています)。

 

〈事例1〉亡夫側の「兄弟姉妹」との縁

Aさん:58歳(会社員、年収700万円)

元親族:義理の兄 65歳 独身(無職、年金90万円)

 

義父、夫が4年前に他界、その後義母も死亡。ずっと独身だった義理の兄にとって、Aさんが唯一の親族となる。義理の兄は大学卒業後に就職したものの30代半ばで退職、以来職を転々とし、現在は無職。義父母が金銭的なサポートをすることが多かった。1年半前に義母が亡くなったことを機に、Aさんは法的な扶養義務から逃れるため、姻族関係を終了。

 

Aさん夫婦には子どもがいませんでしたが、実の妹や甥がいます。夫の両親との関係は良好で、亡くなった夫の分まで義母に対しても親孝行してきたつもりでした。しかし、義母が残したわずかな財産もあっという間に義兄が使い果たし、夫の親とはいえ、いつまでも甘やかし続けている態度にもうんざりとしてきました。義母の死後は、安定した収入があるAさんをあてにしているのがわかっていたので、手続きを行って安心したと話していました。

 

現在は、義理の兄とは会わないよう気をつけながら、夫のお墓参りをしているそうです。

 

〈事例2〉長男だった夫の代わりを息子(実孫)に求め…

Sさん:58歳(会社員 年収480万円)

別居の親族:

息子 29歳(大手企業会社員 年収600万円)近々結婚予定

義母 87歳 夫の実家で義妹夫婦と生活

義妹 58歳(専業主婦)

 

共働きだったSさん夫婦は義妹よりも世帯年収が高く、夫は義父母のためにこれまで実家のリフォーム代などの費用を負担してきた。夫が2年前に他界。その後、義妹が義母を施設に入居させると決めて、それまで同様に「お兄ちゃん(夫)の分」として費用の半分以上をSさんに求めてきた。義父が亡くなった際の相続では、実家の土地建物以外財産もなかったので長男である夫はなにももらわず、ずっと夫婦共働きのSさんに、「長男としての負担分」を求めてくる親族との関係が負担に。

 

「姻族関係終了すれば、スッキリして自分自身の老後の財産を守れる」「息子には負担をかけたくないし、お嫁さんにも嫌な思いはさせたくない」と考えるも、姻族関係を終了させると義実家は今後、息子に負担を求めるのではないかと気がかり。

 

嫁であるSさんにだけ「孫はS家の名字を継ぐ唯一の子」と義母は言い続け、お墓を守ること、孫への教育方針に口出ししてきました。また、なにかにつけ比較的裕福な家庭で育ったSさんの実家を妬む義母とはそりが合いませんでした。

 

「義実家からは、いままで孫(息子)におこづかいなど一切もらったことはありません。それも構わないと思っていました。この先も息子に長男の代わりの負担を押しつけないで欲しい」自分が亡き夫の扶養義務を負うと、老後の資金が減る、姻族関係終了すると、息子とその配偶者(お嫁さん)に影響があるかも……というジレンマに悩まされています。

 

このような場合は、先に息子さんにも相談しておくのが賢明です。