判断能力が衰えていく親の財産管理問題
年を重ねるごとに、物忘れが増えたり、判断力が鈍るのは、誰にでも起こりうる自然なことです。そして、自分の親の判断能力が衰えているのではないかと感じつつも、どこまで関与すべきか子どもの立場からどのようにサポートすることを切り出すか、そしてタイミングも悩むことと思います。
財産管理のなかでも、日常の家計については、高齢でも元気な間は本人の意向を尊重したいと考えたり、兄弟姉妹間で誰が親の財産を管理するかで意見がまとまらない場合もあります。あの手この手で高齢者を狙う詐欺事件も後を絶たず、他人事ではないという不安もよぎります。
今回は、親が大金を散財してしまったというMさんの事例を紹介します(以降は、敬称を略して経緯を説明します)。
<事例>
Mさん:54歳男性 既婚 会社員
Mさんの家族
父:83歳・年金受給者(月14万円)
母:81歳・年金受給者(月6万円)
妹:51歳・会社員(長女 実家近くに夫、大学生と高校生の子と4人暮らし)
妹:47歳(次女 実家から離れた地域に居住)
Mさん(54歳)は3人兄妹の長男です。大学入学を機に、地方にある実家から出て両親とは離れて暮らしています。実家近くには長女である妹夫婦が住んでいます。両親ともに80歳を過ぎても夫婦揃って旅行に行くなど、特に大きな病気をすることなく2人で元気に暮らしていて、普段から妹達家族が行き来しているので安心していました。
母、急逝で父が突然ひとりに…
ある日、上の妹からMさんのもとへ「お母さんが交通事故にあった」という連絡が入ります。医師の懸命な蘇生措置の甲斐もなく、母は亡くなりました。
「朝、元気に出かけたのに……」と、突然のことで父も呆然としていました。母の葬儀をすませ、妹たちと一緒に1人残された父の今後の生活について話し合いました。父は、家事ができず、退職後に家の掃除や洗濯、ちょっとした買い物程度ならできるようになっていましたが、家計のことはずっと母が管理していました。
「将来、自分達が老人ホームに入居するときのために」と3,000万円も備えていたのです。Mさん達も、父がひとり暮らしをすることは気になりました。しかし、健康状態に大きな問題もないため、住み慣れた場所で近所に親しくしている人も多いからここで暮らしたい、という父の希望を尊重することにしました。
また、年金振込、家賃・公共料金引き落としの取引がある銀行口座は父の名義のままなので引き続き父が管理し、母と父の名義で貯めてきた合計3,000万円の預金は父の名義にして、通帳などは長女が預かることにしました。