閑職に追いやられて定年を迎えるか、給与減でも新天地に望みを託すか
斎藤さんが、ほかの大卒サラリーマンよりも「給与が高い」から「給与が低い」に転落した理由。それは出向でした。
組織の外に向かって行われる異動である出向。大きく「在籍型出向」と「転籍型出向」の2つあり、コロナ禍、雇用が不安定になった業種があった際、厚生労働省が支援したのが前者。出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、出向元と雇用契約を維持したまま出向先で勤務するスタイルです。後者は出向元企業と出向先企業とで結んだ契約によって、出向元との雇用契約を解消した上で、出向先と雇用契約を結び、出向先で勤務します。
斎藤さんの場合は転籍型出向。給与は出向先の水準で決まり、出向元よりも低い場合は当然、給与は下がります。そのような場合でも会社は説明しなければならず、また本人の同意が必要です。これは社員が不利となる「不利益変更」については本人の同意が必要なためです。
10万円も月収が下がるのであれば拒否すればよかったのでは……しかし、先輩社員をみていると、拒否しても閑職に追いやられるのが関の山。出向の話があがることは、この会社で出世コースから外れることを意味し、受け入れるにせよ拒否するにせよ、どちらも地獄だと斎藤さん。
――転職をするという選択肢もありましたが、うまくいくとも限りません。それであれば素直に出向したほうがいいかなと
出向とはいえ、明らかに片道切符。それでもわずかながら希望があるのであれば、新天地を目指したほうがいい……そんな思いで出向に承諾をしたものの、給与減となったあと上がる気配もなく。すでに定年退職が見えてきたといい
ます。
――手取り31万円……本当に、お金がありません
――息子の学費や住宅ローンを払ったら、時には赤字になることも
火の車の家計をどうにかしようと、奥さんはパートに出るようになったといいます。元々家に居場所はありませんでしたが、ますます肩身の狭い思いをしているという斎藤さん。
――ほんと、惨めですよね
そう自虐しつつも「定年まであと少し。働く場所があって、給与がもらえるだけましですよね」と前向きです。
[参考資料]