一家の大黒柱が亡くなり、生活に行き詰まることのないよう、遺族に払われるのが公的保障である遺族年金。しかし、大切な夫が亡くなったとしても、「遺族年金ゼロ」というケースは珍しくありません。みていきましょう。
年金月6万円・飲食店経営の75歳夫、逝去…68歳妻〈遺族年金ゼロ〉の事実を前に店を再開「死ぬまで働くしか」と覚悟する「厳しい現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

一度も会社員経験がなければ「遺族年金ゼロ」の可能性大

会社員と専業主婦、平均的な夫婦であれば、夫を亡くした妻は月14万円強の年金を受け取ることができ、わずかな貯蓄の取り崩し、やりくりによっては年金だけで暮らしていくこともできそうであることがわかりました。

 

ただ会社員と専業主婦という組み合わせの話。過酷な現実に直面するケースも珍しくありません。

 

飲食店を営む伊藤和人さん(仮名・76歳)聡子さん(仮名・68歳)夫婦。和人さんの父親が1代目で、和人さんは2代目。開店から50年以上が経ちます。

 

街の中心であった商店街に位置する飲食店は、昔は大いに繁盛したといいます。しかし、30年ほど前に街の郊外に大型のショッピングモールができてからは商店街は寂れる一方で、シャッターを下ろす店が増えたといいます。

 

繁盛している店であれば、子どもたちに継いでもらう、という選択もありましたが、そんな惨状を前に、「自分たちの代で終わらせるしかない」と夫婦で話していました。「もう店を辞めてしまおうか……」そんな話をしたこともありますが、月の年金は夫婦で13万円ほど。それだけで生活するのは苦しく、客足が減ったとはいえ、店を開けて働かないといけない切実事情が夫婦にはあったのです。

 

そんなある日、和人さんが心筋梗塞で倒れ、帰らぬ人になります。1週間後、妻の聡子さんは店を再開。周囲からは「旦那さんが亡くなったばかりなのに、早いんじゃない?」と心配されたとか。しかし「働かないと生きていけないのよ」と聡子さん。

 

学校を卒業した後、すぐに和人さんと結婚し、一緒に店を切り盛りしてきたという聡子さん。もらえる年金は、前出の例とは異なり、自身の老齢基礎年金のみ。

 

遺族年金には国民年金に由来する遺族基礎年金と、厚生年金に由来する遺族厚生年金があります。遺族基礎年金には子の要件があり、成人していない子がいないと受け取ることができません。遺族厚生年金は、厚生年金に加入している人、していた人が亡くなった場合に遺族が受け取れるもの。会社員経験のない和人さんが亡くなっても、当然、残された妻には遺族厚生年金は払われません。つまり聡子さんは遺族年金を受け取れないということになります。

 

月々6.8万円の年金。昨今の厳しい経営環境のなか、貯蓄はほとんどありません。店を再開し、すこしでも稼がないと生きていけないというのです。

 

――いつまで店を続けるかって!? ……死ぬまで働かないと、とても生きていけないね

 

残された遺族が生活に困らないようにサポートする遺族年金。それだけで遺族が生きていけるかはケースによりますが、まったく受け取れないというケースも珍しくありません。

 

公的な保障がないのであれば、自分たちでどうにかするしかありません。「死ぬまで働くしかない」というのも、ひとつの答え。なんとも残酷な現実です。

 

[参照]

総務省『家計調査 家計収支編 2023年平均』

厚生労働省『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』