終の棲家について考えたとき、住み慣れた自宅と思い描く人が多いようです。しかし年齢と共に体の自由がきかなくなり、自宅で暮らし続けることが困難に。そうなると老人ホームへの入所というのも、ひとつの選択肢になるでしょう。ただ一度入所すれば、安心というわけではないようです。
年金16万円「老人ホーム入居」82歳の母、真夜中の電話で「助けて」と嗚咽…明朝、駆けつけた52歳長女が目撃した〈悲惨な光景〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

快適な生活が一変…母が入所する老人ホームで起きた異変

こうして始まった母の老人ホームでの生活。美恵子さんの心配はよそに、積極的にレクリエーションに参加するなど、満喫しているよう。

 

――心配し過ぎだったのかな

 

と美恵子さん。ただ母がホームに入所して2年ほどたった頃異変が起こります。ある夜、時計の針は12時をまわろうとしているときでした。美恵子さんの携帯電話が鳴ります。「こんな時間に誰?」と思って出てみると、老人ホームで暮らす母でした。

 

――どうしたの、お母さん?

 

何事かと思っていると、母は明らかに声を押し殺すように泣いている……何度か「どうしたの?」と聞くと、何とか声に出たのが「たすけて」という言葉だったといいます。

 

これ以上、何も言葉にしない母。ただ、何かが起きていることは確かでした。そこで翌朝、高速を走らせて、母が暮らす老人ホームに駆けつけたといいますが、ホームに着くなり衝撃的な光景が広がっていたといいます。

 

明らかに清掃は行き届いておらず、ゴミが目立つ館内。どこかでモノが腐っているのかと思うほど、ニオイも気になります。そのようななか、必死の形相でバタバタと走り回る介護スタッフ。ただ明らかに人が足りず、忙しくしているのは数人だけ。殺伐とした空気が流れています。

 

何とかスタッフをつかまえて話を聞いたところ、先日、職員が大量に退職。新しく就任した施設長との確執によるものでした。あらゆるサービスが低下し、館内の清掃もできない状況だといいます。

 

――職員が足りなく、介護が必要な入居者のなかには、1週間ほど、お風呂に入っていない人も

 

このような状況でも母は「一生懸命やってくれているスタッフに申し訳ない」と実情を訴えることができなかったといいます。しかし「このままでは、いつか事故が起きてしまう。ここに母はおいていけない」。そう思った美恵子さんは、母にすぐに退所するように言い、連れて帰ってきたといいます。

 

慢性的な人手不足が続いている介護業界。要因はさまざまですが、そのひとつが給与。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、医療・福祉施設等の介護職員(平均年齢44.3歳)の平均給与は月収で24.1万円、賞与も含めた年収は359.6万円。これは同調査145職種中122位。全職種平均よりも年収で100万円以上も低い給与です。

 

さらに施設長や経営者が変わるタイミングで、運営方針や職員の待遇が変わり、スタッフの大量離職を招くことも。不適切な介護により、痛ましい事件・事故が起きたケースもあります。

 

そもそも、どんな素敵な老人ホームであろうと、すべての人に合っているかは別問題。一度、老人ホームに入所したら安心というわけではなく、自分に合った施設へと転居することも珍しくありません。入居者の家族も、本人とは違う視点で、入居者が安心で快適に暮らしているか、定期的に面会などにいって確認することが大切です。

 

[参照]

公益財団法人 日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査』

内閣府『令和6年版 高齢社会白書』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』