終の棲家について考えたとき、住み慣れた自宅と思い描く人が多いようです。しかし年齢と共に体の自由がきかなくなり、自宅で暮らし続けることが困難に。そうなると老人ホームへの入所というのも、ひとつの選択肢になるでしょう。ただ一度入所すれば、安心というわけではないようです。
年金16万円「老人ホーム入居」82歳の母、真夜中の電話で「助けて」と嗚咽…明朝、駆けつけた52歳長女が目撃した〈悲惨な光景〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「最期は自宅で」と望むけど…自宅では難しい現状

人生の最期はどこで迎えたいか。

 

公益財団法人 日本財団が2021年に発表した『人生の最期の迎え方に関する全国調査』によると、「人生の最期を迎えたい場所」として、最多は「自宅」で58.8%。「医療施設」は33.9%、「介護施設」は4.1%でした。

 

さらに最期を考えるうえで何が重要かを尋ねたところ、本人は「家族の負担にならないこと」を重視する一方で、子どもたちは「家族等との十分な時間を過ごせること」を重視していることが分かりました。

 

――自宅で最期を迎えたいが、家族には迷惑をかけたくない……

 

なかなか難しい胸のうちを垣間見ることができます。また実際に「最期は自宅で」と希望していても厳しい事情もあります。

 

内閣府『令和6年版 高齢社会白書』によると、高齢者の3割が住み替えを検討していたり、実際に行動を起こしていたりします。その理由として最も多かったのが、「健康・体力面で不安を感じるようになったから」。さらに「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」が続きます。

 

段差や階段があるなど、バリアフリー化されていない住まい。住まいの維持にはお金もかかるし、骨が折れることもいろいろ。ずっと住み慣れた自宅にいたいけど、健康や体力のことを考えると難しい……そんな高齢者の実情がみえてきます。

 

「母自ら『老人ホームに入りたい』と言い出した」という、加藤美恵子さん(仮名・52歳)。実家でひとり暮らしをしていた母(83歳)。最近は足腰が弱く、何かと不自由をしているのをみていた美恵子さんは、自宅が近いこともあり、毎日のように母を訪ねていたといいます。

 

そんな美恵子さんに対して母はしきりに「申し訳ない、申し訳ない」と繰り返していたとか。ちょうど、美恵子さんの次男が受験のタイミングで、何かとバタついていたとき。息子のサポートと、母のサポートで大変に映っていたのかもしれません。

 

――ここ(自宅)は階段や段差が多くて大変だから、老人ホームに入りたいなと思うの

――きれいなところで、年金(月16万円)とちょっとだけで費用は賄うことができそうなの

――今度、見学しに行くから、一緒に来てくれない?

 

母が見つけてきたというホームは、自宅から高速を走ること30分ほど行ったところにできた、新しい老人ホーム。確かに設備は立派で、スタッフもにこやかで好印象でした。しかし「母は本当に老人ホームに入りたいのだろうか……」という思いは拭いきれなかったといいます。