2024年3月、日銀の異次元緩和が終了し17年ぶりに利上げが実施されました。そして7月の追加利上げ。そうなると、多くの人が気になるのが住宅ローン金利への影響です。なかでも、住宅ローン利用者の7割の人が利用する「変動金利」へは、どのような影響をおよぼすのでしょうか? 本記事ではSさん夫婦の事例とともに、日銀の利上げによる住宅ローンへの影響について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
〈日銀利上げ〉変動金利を選んだ年収650万円の42歳会社員、マイホームを失う日までのカウントダウン…「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、詰みました」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

ツラく厳しい現実

「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、私と妻の病気、収入減。追い打ちをかけるように今回の利上げ……もう、辛すぎます」Sさんは非常に落ち込んだ様子です。

 

FPがSさんの家計を分析してみたところ、さらにツラく厳しい現実がわかりました。

 

・このまま金利が据え置かれたとしても老後破綻は免れない
・子供の大学資金は用意できない
・住宅ローンの金利が上昇したら家計破綻が早まる

 

とFPは全否定だったのです。

 

「金利上昇に備えて安い金利に借換えするのはどうでしょうか?」となんとか希望を見出そうと、夫Sさんが訊きます。

 

しかしFPの答えはこうでした「がんの既往歴があるため、銀行での借換えはもう不可能に近いです。団信に加入できないため、審査がNGになってしまいます」。

 

「そうでした……」

 

「団信に加入しなくても融資される金融機関や住宅ローン商品もありますが、その場合は自分の生命保険でカバーしておく必要があります。加入している保険の死亡保障は6,000万円以上あるでしょうか」

 

「ないですね……」

 

「それに、Sさん1人の年収では残債の6,000万円を借り換えることは不可能です。奥さんが正社員として復職したら可能かもしれませんが、無理はできません」

 

現在Sさん1人の収入で家計をやりくりしていますが、住宅ローンの負担が際立って大きくなっています。16万6,000円という現在の返済額は世帯年収650万円の家計では極めて難しいはずです。さらに金利が上昇し、返済額の見直しが上限の125%まで到達したら、毎月の返済は20万7,500円にもなってしまい、完全に生活が成り立たなくなります。

 

家計破綻を免れるには

「詰みました……。もうだめですね」と夫Sさん。


しかし、諦めている場合ではありません。なんとかして家計破綻を免れる努力をしなければならないのです。では、Sさんとその家族の家計を改善するにはどうすればよいのでしょうか?

 

もし住宅ローンの変動金利が上昇したとしても、返済額が高くなるまでにはあと数年の猶予があります。それまでになるべく早く自宅を任意売却するべきかもしれません。幸いSさんが居住している地域は地価が上がっています。建物の相場も上がっているため、多少売却が有利に進められるかもしれません。

 

とはいえ、住宅ローンを相殺できるほどの値段にはならないでしょう。損失の部分は給与所得から数年にわたって損益通算し控除することはできます。オーバーローンとなった部分をなんとか返済しながら、いまは賃貸に転居すべきかもしれません。妻Tさんの負担感も減り、療養にはいい影響となるでしょう。もちろんそれを決して責めることがないように気を配ることが大切です。

 

変動金利の上昇は、同時に違うリスクを露見させてしまう可能性があります。金利が上昇したら借換えればいい、繰上げ返済すればいい、という教科書どおりの方法が必ず可能になるわけではありません。

 

住宅ローンを借りるときは眠れないほどの不安を抱える人も多いものですが、すぐに慣れてしまいます。年数が経過すると、家計に気づいていないリスクが生まれている可能性があります。常に専門家に家計分析を依頼し、リスク対策を最適化させていく必要があります。
 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表