職場でのコミュニケーションがうまくいかなかったり、話が相手に伝わらなかったり、「対話」に関する悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか? フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏は、著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)のなかで、「コミュニケーションの場で、声にして出す言葉だけが相手との共感を生み出すとは限らない」といいます。初対面の人への呼びかけ方や視覚に訴えかける対話について、詳しく見ていきましょう。
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着ている服も立派な「意思表示」

コミュニケーションの場において、声にして出す言葉だけが相手との共感を生み出すとは限りません。

 

視覚にも心に届くメッセージがあり、その点をうまく活用することも、実りある対話には重要なことです。

 

「視覚に訴える」というと、いわゆる「人は見かけが9割」的な身だしなみ、服装や髪型に注意して不快感を与えない――そんな広い意味でのTPOのこと、あるいはマナーのことだと思うかもしれませんが、ここで取り上げるのはそうしたことの先に自分からのメッセージを発していこう、という提案です。

 

たとえば、視覚に訴えるメッセージの中で、最も影響の強いのは色彩だと言われています。これについては、色彩心理学という分野もあるほどで、たとえば赤は情熱的、青は冷静沈着、黄は天真爛漫など、特定の色が心に与える影響については、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。

 

スポーツのチームなどには、必ずと言っていいほどそれぞれのシンボルカラーがあり、マークやロゴ、ユニフォームなどに使用されています。認知度の高いシンボルカラーであれば、その色を見ただけでファンはそのチームをイメージします。

 

であれば、ビジネスで取引先の方と会う場合にも、その点に気を配ることは効果的ですね。以前、ある企業のトップと対談した時のことです。

 

私はこういった際には、いつもコーポレートカラーを調べて自分のファッションの中に取り入れるようにしています。この企業のコーポレートカラーは赤でした。また、靴も2足用意していきます。1足は少しヒールがあるもの、もう1足はフラットなもの。それは、お相手の方の身長の情報が事前になかなかわからないからです。会社としては、折角、高額な料金を支払って紙面を買い、トップをお出しするのに、ツーショットの写真などで私のほうが大きく堂々と写っていては申し訳ありません。ですので、現場でお相手の身長を確認して、どちらかを選ぶようにしています。

 

この日も靴2足と、その企業のコーポレートカラーの赤い珊瑚のネックレスを持っていきました。果たして、先方のトップは赤のネクタイを取り出して「これをつけるように言われちゃってね」と、それまでしていたネクタイを外して赤をお締めになりました。それを見た私は、着けてきたパールのネックレスを外して「私も用意してきたので」と、すかさず赤い珊瑚のネックレスにつけ替えました。

 

「ほう、わざわざそんなご配慮をいただけるとは!」と先方は驚いたご様子。

 

「折角ですので、御社のシンボルカラーをつけようと」

 

そんなやり取りがあったお陰で、一気に打ち解けて話も弾み、楽しいインタビューになったのを思い出します。

 

一方、もし、こうした点に無頓着だったら、どうなっていたか? 初対面であそこまで距離を縮められたかどうか、振り返ってみて自信がありません。視覚に訴える言葉=メッセージというのは、それほど大きな効果を発揮するものなのです。また、ある時、某携帯電話会社のお仕事をさせていただいた際は、代理店さんから「競合企業のシンボルカラーは絶対に避けて下さい」と事前のご指示を受けたこともあります。

 

言い換えれば、企業間の競争はそれほど熾烈で、そこにも気を遣わなければならないシビアな世界だということです。

 

一説には、人は外界からの情報のおよそ80%を視覚から得ているとか。対話というコミュニケーションの場面でも、その点を十分に意識し味方につけるべきでしょう。ネクタイやジャケット、小物の色ひとつにまで気を配ることで、功を奏することも。そういったことが相手との距離を近付ける可能性も大きいということも頭に置いてみて下さい。

 

木場弘子

フリーキャスター