仕事一色だった40年余りのサラリーマン人生。現役を引退した後は「妻とゆっくり過ごそう」などと、老後を思い描いているケースも多いでしょう。しかしそれは夫だけの幻想で、老後のベースとなる年金まで減額という、まさかの事態に直面することも。最悪の老後、そのシナリオをみていきましょう。
〈退職金4,000万円・年金夫婦で月29万円〉のはずが…65歳の元大手企業部長、勝ち組確定が一転〈年金3割減〉の想定外「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

60歳定年退職→再雇用で65歳まで現役延長、「年金増額」の喜び束の間…

大手企業で部長だった大卒サラリーマン。60歳で定年を迎え、このとき退職金は4,000万円ほど手にします。そして再雇用で65歳まで働き、いよいよ年金生活をスタートさせる……そんな勝ち組サラリーマン、仮に60歳で現役を引退していたら、年金は老齢厚生年金が月額13.1万円。併給の老齢基礎年金と合わせて20.0万円でした。

 

*厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』より算出

 

65歳まで現役を延長したことで、老齢厚生年金は15.0万円に増額。老齢基礎年金と合わせて月21.8万円となりました。妻の老齢基礎年金と合わせると、月28.6万円。手取りは24万~25万円程度。平均支出額から考えると、年金だけでやりくりすることも視野に入り、まさに老後は勝ち組確定。これまで支えてくれた妻を労い、ゆっくり暮らそう……そう思っていたのは男性だけ、というのはよくあること。定年を迎えて、男性は妻から「離婚」の意思を告げられます。

 

一般的に結婚から20年以上たった夫婦の離婚を熟年離婚といいますが、2021年で婚姻20年以上の夫婦の離婚は3万8,968件。離婚件数のうち、実に5件が1件が長年連れ添ったパートナーとの離婚。定年と共にさようならを言い渡されるケースは、それほど珍しいことではないのかもしれません。

 

離婚の場合に考えなければならないことは色々とありますが、そのひとつが財産分与。夫婦期間中に築いた財産が対象となります。それは年金も同様で、専業主婦だった妻は、別れる夫の老齢厚生年金部分について、「年金分割請求」を行うことができます。

 

つまり夫の年金月21.8万円のうち、15.0万円が老齢厚生年金で7.5万円ほどが別れる妻にもっていかれるということ。夫の年金は月14.3万円と、3割超の減額となるということになります。

 

実際の計算は、婚姻期間中の第3号被保険者期間を考慮したものになるので、こんなに単純な話ではありませんが、熟年離婚では年金減額も確実。「夫婦で悠々自適に暮らしていこう」という夢はもちろん「年金だけで暮らしていこう」という目論見も泡と消える可能性も。

 

――そんな、何かの間違いではないのか……

 

そんな悲劇に直面することのないよう、定年前、しっかりとパートナーの心をつかんでおきたいものです。

 

[参照]

総務省「家計調査 家計収支編 2023年平均」

日本年金機構『令和6年4月分からの年金額等について』

日本年金機構『離婚時の年金分割』

法テラス『財産分与とは何ですか。』

法テラス『財産分与の際には、どのような財産が対象となるのですか。』