家族の大黒柱の万が一の時、遺族への社会保障となるのが「遺族年金」です。その認知度は8割弱。ただ、認知度の割に、詳しい仕組みは知られているとは言い難い状況。ポイントを押さえておかないと、その万が一のときに「えっ、理不尽……」と戸惑うことになります。みていきましょう。
年金18万円・68歳夫を亡くした67歳の元・共働き妻、「遺族年金額」に強烈な怒り「あまりに理不尽では」 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺族年金の理不尽…老齢厚生年金をもらっていたら「年金停止」も

夫の場合、年齢によって支給停止となる遺族厚生年金。「支給停止」に関してはもうひとつ、理不尽と感じることがあります。

 

たとえば、68歳の夫と67歳の妻という元共働き夫婦がいたとしましょう。夫の年金は月18万円、妻の年金は15万円だったとします。そんな夫婦に、突然の悲劇が訪れます。夫が急逝してしまったのです。

 

年齢的に未成年の子はいないので、遺族基礎年金は対象外。遺族厚生年金がもらえる可能性があります。遺族厚生年金の受給額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。また65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある人が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「①死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。

 

この夫の場合、18万円-6.8万円=11.2万円が老齢厚生年金の報酬比例部分…A。「①Aの4分の3である8.4万円」か、「②Aの2分の1である5.6万円+自身の厚生年金の2分の1である4.1万円=9.7万円」の高いほうということで、9.7万円が遺族年金額になります。

 

しかしここで、理不尽だと感じる年金ルール。

 

65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権を有する場合

平成19年3月31日までは、原則、どちらを受けるか選択することとなっていましたが、平成16年の年金制度改正により、平成19年4月1日からは、自分自身が納めた保険料を年金額に反映させるため、65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある方は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。

出所:日本年金機構ホームページ

 

前述の妻の場合、8.2万円の老齢厚生年金をもらっています。その分だけ「年金停止」になるというのです。つまり、残された妻は自身の年金15万円に、夫の遺族厚生年金9.7万円がプラスされると思いきや、妻自身の15万円に加えて、夫の遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金の差額である1.5万円しか支給されないということになります。

9.7万円が、1.5万円に……「あまりに理不尽では?」と怒りをあらわにする人が多いのもうなづけます。この理不尽さを是正しようと議論の真っ最中。近い将来、このような理不尽さを感じることがなくなるといわれています。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和6年度の年金広報の取組』

日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』