老人ホームに入居した80代の父から頻繁に電話連額…
老人ホームに入居してから、不安感が薄れたからか、父親の認知症の症状は良くなった(正確には進行が鈍化した)とか。
だからといって、老人ホーム、一度入居が決まれば死ぬまで安心というわけではありません。入居から8ヵ月ほど経ったころ、父親から頻繁に連絡が来るように。
――着替えのパジャマはどこにしまってあるのだろう?
――今日の夕飯の献立はなんだろ?
――靴が見当たらないのだが……?
どれも「スタッフの皆さんに聞いてみた?」と返事するようなものばかり。あまりに電話がかかってくるので「おかしい……」と思い始めた女性。その週の日曜日に父親に会いにいったといいます。そこで見た父親の姿に、女性は思わず目をそむけそうになったといいます。
――お父さん、どうしたの! オムツ、替えてもらってる?
どうやらオムツはいっぱいいっぱいとなり横漏れ。シーツが汚れていました。「どうなっているのよ、スタッフは?」と周りを見渡すと、そこで違和感を覚えます。
――あれっ、前に来た時よりもスタッフの数が少ない……
そのときです。施設中に響き渡る怒号。どうも入居男性がスタッフの失態を責めているよう。
――こんなに大声で怒鳴らなくても……
しかし事態はさらにエスカレート。入居男性の暴言が止まりません。
――アホ
――クズ
――こっちは高い金払っているんだから、早くしろ
思わず、怒りの沸点が続くことに呆気にとられるほど。このあと分かったのは、この入居者男性のひどいカスハラに耐えられず、多くのスタッフが離職。人手不足により、サービスが低下していたのです。オムツを替えるべき時に手があかず、放置さえることも増えているということがわかりました。最近、女性への電話が増えているのは、スタッフを頼ることもできない状態にあることも一因のようです。
株式会社SOKKINが行った『介護士のカスハラ実態調査』によると、96%の介護士が「利用者との関わりで困ったことがある」と回答。具体的なこととしては、最多が「ワガママ・言うことを聞いてくれない」で39%。「認知症患者の対応」が36%。「業務外の頼みごとをされる」「個人的に連絡先を聞かれる」と続きます。
さらに「利用者から暴力やハラスメントを受けたことがあるか」の問いに対しては88%が「ある」と回答。またこのようなことが起きた際、「上司に報告したが適切な処置はとられなかった」が57%と6割弱にのぼります。
カスハラに悩む介護業界。認知患者を受け入れている場合、入居者による暴言や暴力は日常茶飯事のため、カスハラか認知症の症状かを線引きするのは難しいもの。度を過ぎたものでも放置しがちで、それにより職場環境が悪化→退職者が続出→サービスの低下という悪循環になるケースも珍しくなく、それがまさに女性の父親が入居する老人ホームだったわけです。
――高いお金を出してまで、このホームにこだわる必要はあるのか
老人ホームの転居も視野に入れているといいます。
[参考資料]