亡父が書いた「遺言書」…長男の想いが反映されているはずだったが
亡くなった人(被相続人)の有効な遺言があった場合、相続はその遺言に従うことになります。ただし、その遺言が遺留分の範囲を侵害している場合は、遺留分を侵害されている相続人からの「遺留分減殺請求」によって、その侵害の範囲で遺言の内容が修正されます。
遺留分は一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のこと。子のみが相続人の場合は、法定相続分の2分の1が遺留分として認められます。つまりこのケースの場合、遺産の1/4が法定相続分なので、遺産の1/8は遺留分として認められるということになります。遺言書を作成する場合は、遺留分に気をつけて作成しないと、 逆に面倒なことになります。
話は戻り、実際に相続が起きたのは、遺言書の作成をお願いしてから3年後のこと。葬儀などが終わり落ち着いたころ、きょうだいに遺言書の存在を明かし、父の遺志を確認する当日。
遺言書
家と土地はお兄ちゃんに譲る
銀行にある預金は、ほかの3人で均等に分けること
平成●年5月吉日 XXXX(実父の名前)
一見すると男性に有利にみえる遺言書。妹の顔が瞬時に曇ったものの、違和感を口にします。
――このお兄ちゃんって誰のことよ?
――5月吉日っていつよ。この遺言書、無効じゃない?
「お兄ちゃん」では、長男か、次男か、三男か、誰かは明確ではない。「5月吉日」ではいつのことだか分からない。「家」「土地」では、それが実家とは限らない……男性も遺言書をみて「これはまずい」とすぐに気が付き、茫然自失。遺言書の不備により、遺産分割については相続人であるきょうだいで話し合うことに。実家に住み続けたい男性に、実家を売って現金化して分割したい妹。その間で右往左往する次男と三男。男性が実家を相続する代わりに、身銭をきって、妹が納得するだけのお金を渡すことが現実的……いまはそのような段階だといいます。
――父の遺志が分かる遺言書ではあったのですが……残念です
遺言書には、「誰に、どの財産を、どのぐらい残すか」を具体的に記載する必要があります。自筆証書遺言書の場合、「遺言書の全文、日付、氏名の自書と押印する」「自書によらない財産目録を添付する場合は、各ページに自書による署名と押印をする」「書き間違った場合は、従前の記載に二重線を引き、訂正のための押印する」など、民法に定められた最低限の要件を満たしている必要があり、不備があれば無効になります。
故人の遺志が反映された遺言書。自筆証書遺言書の場合、その想いを実行できないという不幸が起きがちです。万全を期するなら、公正証書遺言が安心です。
[参考資料]