会社に残るか、それとも去るか……人生の岐路に立たされている、定年間近のサラリーマン。そこで突発的に退職を選んだばかりに、最悪の結果を招く場合も。みていきましょう。
〈月収77万円〉59歳の大企業部長、60歳定年「再雇用」か、それとも「退職」か…会社を去る人たちの自滅パターン「何か間違いでは」

大企業の部長でも「定年退職後」にまさかの老後破産

定年を境としてモチベーションが下がる要因のひとつが給与。厚生労働省の調査によると、大卒・大企業に勤務する59歳の部長職であれば、平均給与、月収で77.7万円、賞与も含めた年収は1,318.5万円にもなります。それが60歳定年で再雇用。役職なしの非正規社員になると月収は31.4万円、年収は519.5万円と、定年前の4割以下に……これでモチベーションを保て、というほうが無理な話です。

 

さらに元上司と元部下のコミュニケーションも難しいもの。「いつまで上司面しているのか……」と、元部下に陰口を叩かれることもあり、なんとも微妙な空気が漂うことも珍しくありません。

 

――こんな惨めな思いまでして、この会社にしがみつかなくても……

 

そう考えて、定年で会社を去る決意をするケースも珍しくありません。

 

仕事も意欲もあがらず、会社での雰囲気も微妙……そんな状況から逃れるためにも、定年で現役引退という選択肢も現実的です。しかし、きちんとしたマネープランのもと決断をしないと、最悪、老後破産というパターンもゼロではありません。

 

現在、公的年金の支給は原則65歳から。そのため60歳定年退職後、無収入の期間が5年間あります。その間、退職金や貯蓄を取り崩して生活していくことになります。

 

総務省の調査によると、世帯主60~64歳・無職(世帯人数2.51人)の1ヵ月の消費支出は28万5,152円。1年間で342万円かかる計算です。5年間では1,710万円ほどかかる計算になります。無収入の5年間は、これだけのお金がただ消えていくのを眺めている生活になります。

 

【世帯主60~64歳・無職世帯の1ヵ月の平均支出】

■消費支出

28万5,152円

(内訳)

食料:77,714円

住居:23,101円

光熱・水道:24,661円

家具・家事用品:12,838円

被服及び履物:6,405円

保健医療:13,602円

交通・通信:42,646円

教育:1,126円

教養娯楽:29,105円

その他の消費支出:53,954円

 

さらに住宅ローンがまだ残っていたら……平均的な住居費は2万3,101円。この数値には持ち家も賃貸も、ローン有もローン無、すべてひっくるめての平均。ローンを抱えていればさらに支出は大きくなります。そのような状況で無収入の5年を乗り越えることができるでしょうか。乗り越えられたとしても、その先の年金生活は苦しいものになります。

 

また前々から定年退職を決めていたのであれば、「家計の見直し」→「サイズダウン」ができますが、何の準備なしに退職を決め現役時代の感覚を引きずっている場合は最悪です。定年後に邪魔になるのは、サラリーマン時代の“見栄”。大企業の元部長、高給取りにふさわしい暮らしをしていたり、何かにつけて「支払いは私が」と、良い格好をみせていたり。見栄っ張りせいで支出がかさみ、生活水準も落とすこともできず。どんなに退職金が高額であっても、どんなに貯蓄があっても、無収入の5年間でスッカラカン。「こんなことになるなんて……何かの間違いでは?」と後悔したところで老後破産は確実です。

 

――家計の見直しを行い、定年後の生活設計もバッチリ

――無収入の5年間はもちろん、年金生活者になった後も困らないだけの貯蓄もある

――「大企業の部長だったんだぞ」という過去の栄光も捨てることができる。

 

そんな準備万端で定年を迎えることができるのであれば、60歳の定年とともに会社を去る選択をしても問題ありません。無収入の5年間も楽に乗り越えることができ、年金を受け取るようになる老後も安泰です。

 

[参考資料]

厚生労働省『高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~』

厚生労働省『令和5年高年齢者雇用状況等報告』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

総務省『家計調査 2023年平均』