毎年、誕生月に届く「ねんきん定期便」。そこに書かれた一文「年⾦受給を遅らせた場合、年⾦額が増額します。」に、「どうせなら、年金はたくさんもらえたほうがいい」と、年金の繰下げ受給を決める人もいるでしょう。ただきちんとシミュレーションをしたうえで判断をしないと、「実は損をしていました……」という事態に陥る場合も。みていきましょう。
日本年金機構「年⾦額が増額します」に、月収44万円・55歳のサラリーマン〈繰下げ受給〉を決断…70歳で〈年金4割増〉にガッツポーズも「年金ルール」知って撃沈

また「税金や社会保険料の負担が増える」という点も、きちんと考えておく必要があります。「所得税」「住民税」「国民健康保険料」「介護保険料」は所得に応じて決まるため、「繰下げ受給」で年金の受取額が増えると、それらが高くなる可能性があります。給与においても「給与が増えたのに、手取りが思ったよりも増えない」という経験は、誰もがあるでしょう。年金においても同じ現象が起きるわけです。

 

さらに「加給年金や振替加算が受け取れなくなる」点も理解しておきましょう。「加給年金は厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が65歳到達時点で、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者や18歳までの子どもがいるときに加算される年金。年齢がある夫婦であれば、もらえる可能性が高いものです。ただし加給年金の受給要件を満たす人が年金の繰り下げ受給を選択した場合、加給年金の受給も後ろ倒しに。結果、年金を受け取るころには要件から外れ、1円ももらえない、というケースが考えられるのです。

 

また配偶者が65歳を迎えるなどで加給年金が打ち切られたあとは、配偶者の老齢基礎年金に対し、年齢に応じた加算が受けられる「振替加算」という制度があります。夫(妻)が加給年金の対象の場合に受給できる可能性がありますが、配偶者が65歳を迎えるタイミングに「年金の繰下げ受給」を選択していると、振替加算も対象外になります。

 

このように、年金制度はさまざまなルールがあり、きちんと理解したうえで最適な判断をしないと、知らぬ間に損をしていることもしばしば。「年金の繰下げ受給」を検討する場合、年金増額で税金や社会保険料の納付額がどのように変わるか、加給年金等はどうなるのかなどは、一度、年金事務所などに相談するのがおすすめです。

 

[参考資料]

日本年金機構『大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています』

日本年金機構『年金の繰上げ・繰下げ受給』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』