繰下げ受給「年金増額」の甘い言葉に隠された落とし穴
年金の受給を遅らせる代わりに、増額した年金が受け取れる繰下げ受給。
――なんてお得な制度なんだ!
また老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げすることができるという点も見逃せません。65歳以降の生活費、足りない分を片方の年金でカバーし、もらわなくてもやっていける分に関してはもらわずに増額を狙う……そんな年金のもらい方もできるわけです。
ただし、繰下げ受給を活用には注意が必要です。
たとえば65歳で国民年金月6万8,000円、厚生年金月5万2,000万円という元サラリーマン。年金をもらいながら、繰下げ受給も利用して、年金増額を狙います。そして70歳になったある日、自慢気にこんな会話。
――年金を繰り下げると年金が増えると聞いて……いま年金を繰り下げているんですよ
――なるほど
――10歳年下の妻がいるので、すべて繰下げると厳しいから、片方の年金だけ繰り下げています
――えっ、どちらを繰り下げているんですか?
――老齢厚生年金ですね
――……手遅れですね
――えっ⁉
年金の繰下げ受給で注意したいひとつが「加給年金の停止」。加給年金は、本人が厚生年金に20年以上加入し、65歳未満の配偶者や18歳到達年度の末日までの子どもがいる場合にもらえる年金。妻の年収が850万円未満という条件もありますが、数年以内に退職をし年収が850円以下に減ることが確実という場合は、加給年金が受け取れる場合も。
ではいくらもらえるのか、というと、23万4,800円に、特別加算額17万3,300円(特別加算の金額は夫の年齢によって異なる)。つまり年40万円ほどがもらえるということになります。さらに加給年金は、夫の年金に上乗せされるものですが、妻が65歳になると、今度は振替加算が妻の年金に上乗せされます。
老齢厚生年金を繰り下げる場合、繰下げ期間中は加給年金は支給されません。また老齢基礎年金を繰り下げる場合は、振替加算は支給されません。さらに加給年金額と振替加算額は、繰下げによる増額の対象にはなりません。
10歳年下の妻がいるという70歳の元サラリーマンの場合、年40万円あまりの加給年金がもらえず、それが5年あまり続いていたということなので、本来もらえるはずだった加給年金200万円を、老齢厚生年金を繰下げたばかりにもらい損ねた、ということになるのです。
――えっ、そんな! いまから変更できませんか?
そんな願いも、一度、もらい損ねたものを、あとでもらうことはできません。複雑な年金制度。細かなところもきちんと把握しうまく活用しないと、知らず知らずに損をしている、ということも珍しくないのです。
[参考資料]