両親の他界
幸せな老後を過ごしていたAさんとBさんですが、Bさんは突然の病に倒れます。脳梗塞でした。ほとんど治療もできずにあっという間に70歳で他界してしまったのでした。
残されたAさんは気を落としましたが、幸いなことに近くで暮らしていたCさんがAさんの暮らしを献身的にサポートしてくれました。日常の炊事、洗濯、買い物、さらには入院や介護施設への入所の際の保証人にもなるなど、献身的なサポートを約10年間も続けたのです。そんなCさんが支えたAさんの人生もやがて終わりが訪れます。
軽度な認知症だったAさんですが、Cさんに伝えます。
「妻(Bさん)と再婚できて本当によかった。私のことを父親として受け入れてくれてありがとう。Cちゃんにも本当に世話になったね。私には実の子どもがいないから、財産(3,000万円)はすべてCちゃんに託すよ。D君とも相談して、Cちゃんを中心に私の財産は引き継いでおくれ」
CさんもAさんのことを実の父親のように関わっていたため、涙を流しながら「お父さんありがとう」と応じます。そしてAさんは80歳で安らかにあの世へと旅立ったのでした。
銀行からは門前払い、弁護士からも非情な事実を突きつけられ…
Cさんは悲しみもほどなくして、Aさんが残した言葉を実行に移し始めます。取引銀行に相談することから始めたのですが、取引銀行からの一言は、
「CさんはAさんと養子縁組をしていませんから、相続する権利はありません。それ以上お答えできることはありません。相続人からの手続きが必要です」
とまったく門前払いの状態でした。
これまでの経緯、いきさつを懸命に話してみたのですが、銀行が応じる気配はまったくありません。そもそも戸籍謄本の取得すらまともに進まないのです。唯一連絡の取れたAさんの弟の協力を仰いで戸籍謄本を取得できたのですが、さらにCさんの気持ちは追い詰められていきます。
Aさんには弟以外に姉がおり、その姉はすでに他界していました。弁護士にも相談したところ、Aさんの相続人は弟、すでに他界した姉の子どもの3人が相続人になると告げられました。CさんはAさんに姉がいることもなんとなくしか聞いていませんでした。ましてやその子どもたちとなると、居場所すらはっきりとわかりません。Aさんが亡くなる前の「遺産はすべてCちゃんに」という言葉は、いっているだけであり、Cさんは中心どころか蚊帳のなかにすら入れてもらえなかったのでした。