もはやタワマン…高級な「終の棲家」の現実
Aさんが入居したマンションは、シニア向けの高層マンションでした。いままで一戸建てにしか住んだことのないAさんは、高階層での暮らしは「フワフワした感じ」で合わなかった、といいます。
娘さんは「こんな海が見える眺めのいい暮らし、文句をいうなんて贅沢よ」と言うので黙っていましたが、そんな娘夫婦も友達も最初だけでなかなか遊びに来てはくれなくなりました。
外に出ればお店なども多く賑やかなのですが、高齢で人手が苦手なAさんはその都度エレベーターで降りるのも面倒で、ほとんど部屋から出なくなってしまいました。
それでもレストランなどで顔を合わせるようになった友達が何人かできたAさんですが、ある日、よく見かけた80代の女性がぱったりと姿を見せなくなるのに気が付きます。ほかの友達に聞いてみると「あの人は体の具合が悪くなって、追い出されちゃったのよ」といいます。そこで初めてAさんは「ここは終の棲家ではない」ということを知ったのでした。
シニア向け分譲マンションは、住民が認知症など介護が必要になった場合、訪問介護サービスやデイサービスについては、外部の業者と新たに契約を行ってサービスを利用することになります。状態が悪化して恒常的な介護や医療が必要と判断された場合は、有料老人ホームなど別の施設への引っ越しを余儀なくされるケースもあるのです。
もちろん、シニア向け分譲マンションによって、どこまで対応してくれるかは違ってきますので、契約前に必ず確認しておかないといけません。Aさんが確認したところ、Aさんが入居したマンションは「要介護3」になったら退去することになっていました。
Aさんは高級な老人ホームだとしか認識していなかったので、まさか、また引っ越しすることになるかもしれない、と考えると大きなショックを受けてしまい、毎晩「お父さん、お父さん……」と亡くなった夫を偲んで泣いてばかりいるようになります。
いままで夫と娘のいいなりで生きてきた人生でしたが、半月ほど泣きはらしたあとに一大決心をします。
「身体の動くうちに生まれた故郷へ帰ろう!」
娘には内緒で実家に住む実弟に連絡し、事情を説明して、近所の小さな中古の一戸建てを借りてもらうことにしました。その後Aさんは、実家にしばらく外泊する、とスタッフに言い残して2度と戻ることはありませんでした。
Aさんが帰ってこない、と連絡を受けた娘さんはビックリします。慌てて母親の所に飛んでいき、強く戻るように諭しますが、いままでの母親とは違ったように頑として言うことを聞きません。
「私は眺めのいい景色より、仲のいい人たちのそばで暮らしたいのよ!」と言われ、根負けした娘さんは「仕方ない。賃貸に出そう」と決心します。