働いている間は年金を受け取らず、受取額アップを狙う……そんな思いから「年金の繰下げ」を選択するケースも多いといいます。しかし年金の繰下げ中に亡くなると、遺族は思いもよらぬことに直面することも。みていきましょう。
年収800万円・45歳サラリーマン急逝…悲しみのどん底にいる妻にさらなる追い打ち、銀行「700万円一括返済してください」の非情

亡くなった夫が妻に隠れて借金…しかも残された妻に一括返済要求

団信はほとんどの住宅ローンで加入が義務付けられ、団信にさえ加入していれば、遺族がローン残債で苦しむことはありません。ただほかの借入となると話は別です。

 

株式会社アシロが20歳~69歳の男女に行った『借金に関するアンケート調査』によると、全体の4人に1人が「借金経験あり」と回答。借りた理由は「生活費の補填のため」がトップで35.8%。「住宅の購入費のため」24.7%、「車の購入費のため」23.0%、「ショッピングのため」13.3%、「ギャンブルのため」10.8%と続きます。

 

また借入先は「カードローン・消費者金融」「銀行・信用金庫・ゆうちょ・JAなど」がともに41.1%、「クレジットカードのキャッシング」が23.2%と続きます。

 

住宅や車の購入など、配偶者も把握しているだろう借金ならいいですが、ギャンブルなど配偶者にはあまり知られたくない借金だとやっかいです。亡くなってから「えっ、夫に借金が⁉」と発覚。利息分も含めて、相当な借金に驚愕ということも珍しくはありません。

 

さらに「旦那様の借金、いますぐ全額払ってください」と無理難題を押し付けられる場合も。とある銀行のフリーローンの取引規定をみていくと、以下の記載がみられます。

 

【期限前の全額返済義務】

(中略)

(6)借主について、相続の開始があったとき。

 

通常、ローンには「期限の利益」があります。これは支払期限がきたら返せばいいという意味で、たとえば35年ローンであれば35年で返せばいい、というものです。この「期限の利益」は喪失することがあり、その規定が上記になります。そして、そこに記されている(6)。つまり「相続の開始があったとき=借りている人が亡くなったとき」、夫の相続人である妻や子が払わないといけないということです。しかも「期限の利益」を失っているため、分割返済は認められず、一括返済しなければなりません。

 

このフリーローンの借入限度額を簡単にシミュレーションしてみると、たとえば45歳・年収800万円のサラリーマン、ほかに借入がない場合、700万円の借入が可能だといいます。もし可能額ギリギリいっぱいのお金を借りた状態で亡くなった場合、残された妻のもとには「旦那様の借金700万円を一括でお支払いください」という通知がきます。これが夫婦間では秘密の借金だったなら……夫の急逝で悲しみに打ちひしがれているなか、寝耳に水、さらにどん底に突き落とされることでしょう。

 

――夫が隠れて作った借金なんて払いたくない!

 

とか

 

――一括返済なんてムリ!

 

と相続放棄することももちろん可能。しかし、仮に相続放棄をするとプラスの財産も放棄することになるので、非常に頭の痛い問題です。

 

ちなみに上記(6)の規定については問題視され、金融庁は預金取扱金融機関に既定の見直しを要請しました。しかしあくまでも要請であり、見直しを行う金融機関は増えているものの、規定が残る金融機関も珍しくはありません。このような事態を防ぐためにも、「夫婦間でお金の隠し事」は解消しておいたほうがいいでしょう。

 

[資料]

住宅金融支援機構『2022年度 フラット35利用者調査』

カーディフ生命『第4回 生活価値観・住まいに関する意識調査』

カーディフ生命『第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査』