がん保険を選ぶ際、種類が多くてどれが適切なのか、多くの人は迷うでしょう。その際、保険担当者から「治療給付金」主体のがん保険を勧められることがあるかもしれません。説明を受けると、なるほどもっともだと、感じるかもしれませんが、実際にがんに罹患し、保険を使うことになると……。本記事では、坂田ひかるさん(仮名/41歳)の事例とともに治療給付金主体のがん保険の注意点について、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が解説します。
保険担当者の助言どおりの「がん保険」に加入した年収550万円の41歳会社員…大腸がん罹患から3年後、大後悔した「悲しすぎる理由」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

肺への転移で再度治療へ

坂田さんは、定期的に主治医のもとへ通院しながらもいままでどおり仕事に行って日常生活を送っていました。

 

しかし、1年ほど前に肺へのがんの転移が見つかり、あらためて抗がん剤治療を行っていくことになりました。治療は引き続き通院で行う予定で、通院の日は会社を有給休暇で休んで病院へ行く予定です。会社も仕事とがん治療の両立に対して理解があるため、坂田さんもその点は助かっています。

 

がん転移後の治療においても加入しているがん保険の『治療給付金』から1ヵ月あたり20万円の給付があり、経済的な面でも安心して治療に向かうことができています。ただ、最初のころの通院では受け取れていた『通院給付金1回あたり5,000円(通算120回を限度)』の保障。これに関しては、退院後120日までの通院が支払い対象のため、今回は入院を伴わない治療のため、通算120回には至っていませんが給付を受け取ることはできません。

 

そして、最初の入院手術時に50万円の一時金を受け取った『診断給付金50万円(2年に1回を限度に回数無制限)』に関しても、前回から2年が経過していますが2回目以降はがん治療で入院することが条件のため、やはり受け取ることができません。

 

ただ抗がん剤治療費の自己負担額は1回あたり約4万円なので、がん保険の治療給付金からのお金でまかなえていておつりがきている状態です。

 

そんな具合で転移のがんを克服すべく治療を受けていた坂田さんですが、以前の抗がん剤治療の頃よりも副作用が強く出るようになってきて、だんだんと体調不良により会社を休みがちになりました。坂田さんの仕事内容は外回りが多く、それなりに体力が必要となるものだったのですが、会社の上司と相談し、あまり体力を必要としない事務職への配置転換に。それにより肉体的な負担は減ったものの、残業がなくなり月の収入は数万円減少してしまいました。

 

その減少した分をがん保険の治療給付金がカバーしてくれていて、がん保険加入時に担当者がいっていた『治療費に使い残った分を収入保障に』というアドバイスがあったことを思い出し、いい担当者に出会えたことに感謝の念が湧いてきました。

 

副作用で体調悪化し、治療がしばらく中断に

強い副作用にもかかわらずがん克服のために懸命に耐えて治療と仕事を続けていた坂田さん。ただ、治療後しばらくのあいだは体調面が整わず仕事を数日単位で休まざるを得ない状況になってしまいました。

 

職場の人々は坂田さんに対し理解があって助かるのですが、仕事を休むことに罪悪感を感じます。そしてとうとう有給休暇も使い果たしてしまい、休んだ分はただの欠勤となって、給与収入が配置転換からさらに下がることになってしまいました。あるときの抗がん剤治療のあとは副作用がとても強く、回復がかなり遅かったため1週間すべて欠勤という事態になり、健康保険の『傷病手当金』を申請する流れになりました。

 

収入への不安がかなり大きくなりましたが、この傷病手当金とがん保険の治療給付金で経済的にはいままでどおりの生活が続けられています。ただ傷病手当金は最長1年半までの給付ということなので、回数無制限のがん保険治療給付金が本当の頼みの綱という感じがしてきました。

 

そのように感じながらがん治療を続けてきた坂田さんですが、副作用による体調不良もさらに悪化してきた感があり、長く治療を続けてきたことによる体力低下も顕著で、治療の継続が難しいと感じるようになってきました。そんな状況を次の診察時に主治医に伝え、血液検査の結果を見たところ抗がん剤治療を継続することが適切ではない数値であったこともあり、そこからしばらく治療を中断して体調や体力の回復を待つこととなりました。

 

治療中断で治療給付金の受け取りも中断に

体調がすぐれず仕事もしばらく休職することとなった坂田さん。傷病手当金からあと数ヵ月は給付を受けられる予定ですが、金額はいままでの月収の50~60%程度。住宅ローンの返済もまだまだ長く続く予定で、がん団信に加入しなかったことを後悔しました。

 

しかしそのかわりにがん保険の治療給付金が回数無制限で保障をしてくれると安心感を持っていた坂田さんですが、いざ事態が非常に厳しくなってきたところで衝撃の事実を知ることになります。治療の中断が決まった前回の診察分の保険の請求をしようと、いつもの保険会社コールセンターに問い合わせたところ「今回は所定の治療を受けていないということなのでお支払いの対象外となります」という思いもよらない回答が。

 

冷静になってみれば当たり前の話ですが、治療給付金は治療を受けたことに対してお金を受け取れるものです。この治療給付金についての説明を受けたときに担当者から「仕事を休むほど体調が悪ければ、治療を受けているはず」と説明を受け、坂田さんも「たしかにそうだ」と感じ、治療給付金を仕事に出られず給料が稼げないときの収入保障として選んだことを思い出しました。

 

「身体がしんどいときにお金の不安も抱えることほど辛いものはないです。治療は思うように進まないし、頼る人もいないのに破産したらどうしようと、毎日不安で不安で本当に苦しいです」