「認知症患者可」でも老人ホームから「退去勧告」の可能性
介護離職を避けるためにも、在宅介護が難しいと感じたら、老人ホームに頼るというのも手です。
株式会社LIFULL senior/「LIFULL 介護」が行った『老人ホームの入居タイミングに関する調査』によると、入居を決めたきっかけとして46%が「認知症」と回答。認知症の症状のなかでも「排せつの失敗」や「お金の管理ができない」等の理由が多くを占めました。
また「入居時の要介護度」としては、排泄や入浴などにも介助が必要な「要介護2」が最も多く16.7%。要介護2以下が全体の54.6%を占めています。いわゆる「特養」の入居条件は要介護3以上ですが、その前の介護状態でも施設入居を必要とする実態がここからも読み取ることができます。
前述の女性の場合も、介護離職を避けたいという思いから、介護度は低いもののすぐに入居が叶う、比較的自宅から近所のホームへの入居を決めたといいます。そこには、何かあったらすぐに行くことができる、という思いもあったといいます。
しかし入居から1ヵ月も経たぬうちに、「うちであずかるのは難しい」と老人ホームから話があったといいます。話を聞くと、たびたび「うちに帰りたい」と騒ぎ立て、ときに手が出てしまうこともあるとか。職員の数が限られているなか、現状では対応が厳しいというのです。
このように「認知症患者可」という施設であっても、退去勧告がされる場合があります。退去要件は入居前の説明や重要事項説明書などに記され、認知症であれば徘徊などにより職員が対応できない場合や、暴言・暴力などで他の入居者に被害が及びそうな行為があると、退去勧告となるケースが多くあります。退去勧告があった場合、ある程度の猶予期間があるので、その期間で次の入居先を探すことは可能です。ただ女性の場合は、一度、自宅に連れて帰り、改めて受け入れ可能な施設を探すことにしたといいます。
――うちに帰りたいと泣き叫ぶので、いったん落ち着かせようと
しかし、老人ホームを退去し、自宅に戻ったのにもかかわらず、「うちに帰りたい」という主張が止まることはなかったといいます。困り果てた女性は親戚に相談をしたといいます。そこで返ってきたのは「うちって、実家のことではないか」という答え。母の故郷は東北で、結婚を機に引っ越してきたと聞いています。
「うちに帰りたい」と家族を困らせる認知症患者は多いようで、しかもその“うち”は自宅とは限らず、幼少期を過ごした故郷であることも多く、認知症の記憶障害である「記憶の逆行性喪失」によるものだとか。
――母は昔に戻り、幼少期の世界を生きているのかも……
女性はケアマネージャーとも相談しながら、新たな施設を探しているといいます。
[参考資料]