給与が上がらないままモノの値上がりが続く昨今、「生活保護」を申請する家庭が増えています。生活保護制度に対しては、「税金の無駄遣い」「働かずに金をもらうなんてズルい」など批判も少なくありませんが、生活保護は本当に“ズルい”のでしょうか? シングルマザーA子さんの事例をもとに、FP Office株式会社の西田順子氏が「生活保護のしくみ」と「生活保護からなかなか抜け出せない理由」を解説します。
本当は働きたいのに…月21.6万円の生活保護費を受給する31歳シングルマザー「現状から抜け出せない」切実な理由【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

元夫から養育費がもらえない…やむをえず生活保護を受給するA子さん

生活保護を受給しながら2人の子どもを育てているA子さん。「現状、生活保護に助けられてはいるものの、このまま受け続けても大丈夫なんでしょうか」と、筆者のFP事務所へ相談に来られました。

 

A子さんは千葉県在住で、2年前に離婚。当初は自分の力で生計を立てていこうとしましたが、子どもはまだ小さく、パートをする時間が割けません。また、元夫からの養育費等もあまりもらえず、悩んだ末に行政に相談。現在は生活保護を受けながら暮らしています。

 

A子さんの家族構成は下記のとおりです。

 

・A子さん……31歳

・長女……6歳

・長男……5歳

生活保護の基本的な仕組み

ではここで、生活保護の基本について整理しておきましょう。生活保護は、居住する地域によって給付される金額が変わります。これは、都市部と地方部など、その土地によって生活水準や住居費の平均が違ってくるためです。

 

これを「級地区分」といい、

 

・1級地-1、1級地-2

・2級地-1、2級地-2

・3級地-1、3級地-2

 

と6つの区分に分けられています。たとえば、東京23区など都市圏であれば生活費にかかるコストも高いと算定され、支給水準がもっとも高い1級地-1となっています。

 

今回の相談者であるA子さんは千葉県千葉市に住んでいるため、こちらの級地制度の区分は1級地-2に該当します。

 

また、生活保護には、光熱費や食費、衣服などに必要な「生活扶助」など下記の8種類の扶助があります。このうち、生活扶助と住宅扶助については、上記の級地区分や受給者の生活様態により変化します。そのほか、3.~8.の扶助については受給者の要件に当てはまる場合、組み合わせて扶助額が決定されます。

 

1.生活扶助……衣食、光熱水費、その他の日常の生活に必要な費用

2.住宅扶助……家賃、地代、住宅補修費などの費用

3.教育扶助……義務教育に必要な給食費や学用品代などの費用

4.介護扶助……介護サービスを利用するための費用

5.医療扶助……病気やケガなどをした場合の医療に必要な費用

6.出産扶助……出産に要する費用

7.生業扶助……技能を身につけたり、仕事に就くための費用

8.葬祭扶助……葬祭に必要な費用

※ 参照:千葉県千葉市「生活保護制度について」より
(https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/hogo/hogonoaramasi.html)

 

このほか、場合に応じて生活扶助に

 

母子加算……ひとり親世帯で、原則18歳未満の児童を養育している世帯

児童養育加算……高校等修了前の児童を養育している世帯

障害者加算……一定の要件を満たしている障害のある方がいる世帯

 

などが加算されます。ただし、障害者加算と母子世帯加算は併用できず、どちらか金額が高いほうのみが支給されます

※ 参照:千葉市「生活保護のしおり」
(https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/hogo/documents/r3-1_seikatuhogonosiori_nihonngo.pdf)

 

また、住宅扶助については、定められた金額より自宅の家賃が低ければ、その家賃額が支給されます。なお、持ち家の場合は支給されません。

 

ちなみに、「自宅が持ち家だと、生活保護は受けられないのでは」と思っている人もいるかと思いますが、絶対に受けられないというわけではありません。

 

自宅が持ち家の場合、

 

・その住宅に資産価値があり、売却等をすれば収入が得られる場合

・住宅ローンの支払いが残っている場合

 

は生活保護を受けることができませんが、ここに当てはまらない場合、持ち家でも生活保護受給の可能性はあります。