予想以上に高い「生活保護“脱却”」の壁
医療費も税負担もないが、資産形成は難しい
A子さんの場合、現在の生活保護の内訳は下記のとおりです。生活保護費としては、合計約21.6万円を受給しています。
・生活扶助基準額……11.5万円
(母子加算……約2.4万円)
(児童養育加算……約2万円)
・住宅扶助……約5.4万円
・教育扶助……約0.3万円
■合計……約21.6万円
生活保護受給世帯は所得税と住民税が非課税となるほか、国民年金保険料も納付が免除となります。さらに、医療扶助があることから、病院にかかった際も本人の負担はありません。
A子さんは、「勇気を出して生活保護を申請したことで医療費や税金の負担がなくなり、困窮していた生活が少し楽になりました」といいます。
その一方で、「離婚などでストレスをかけてしまった子どもたちには申し訳ないという思いもあり、旅行や遊びに連れて行ってあげたいのですが、なかなか……」。
子どもたちに少しでも楽しい思いをさせてあげたいA子さんですが、生活保護受給中では娯楽にお金を割けないと吐露します。
A子さんが言うように、生活保護は「国民として最低限度の生活に必要な費用」の支給が原則ですので、豪華な食事や遊びなどにお金を使うことは難しくなります。
「子どもたちのやりたいことはできる限り叶えてあげたいですし、のびのび育って欲しいです。このまま生活保護を受けていて大丈夫なのか? という気持ちもありますが、手に職もなく、パートをまた始めるとしても、2人の子どもの面倒を1人で見ているので、ちょっと厳しいかなという思いがあります。しかも働いたらその分生活保護費は減らされてしまいますし、不安ばかりが募っています」
A子さんは、涙をこらえながら話してくれました。
生活保護受給額と“同程度の給与”では、生活水準は保てない
いまのA家と同じ生活水準を働いて保とうとすると、生活保護のおかげで免除になっている住民税や所得税の支払い、国民年金の納付、医療費の支払いが必要になります。したがって、21.6万円では足りず、月に30万円近くの収入がないと厳しいでしょう。
いままでパート勤めばかりで、資格も特になく正社員の経験もないというA子さん。子育ての負担を考慮すると、いますぐに月30万円近い収入を得られる仕事に就くのは難しく、パートで長時間働くというのも現実的ではありません。
実際、A子さんのようにいったん生活保護を受給すると、同レベルで収入を得ることが厳しいために勤労収入での生活を諦め、結果的に生活保護から抜け出せなくなってしまうというケースも少なくありません。しかし、生活保護のままでは資産形成ができないため、長い目で見ると未来を見据えて生活基盤を整えることが叶わなくなってしまいます。
さらに、生活保護で育った子どもが、大人になって同じような境遇に陥り、2世代にわたって生活保護受給家庭になってしまうケースも。
したがって、筆者は「大変なのは重々承知のうえですが、A子さん自身が少しずつ生活基盤を整え、生活保護から脱却し、親の背中を見せることが子どもたちの未来にとっても重要です」と断腸の思いで伝えました。