商業用不動産の不況
これらの中小金融機関を襲う危機はまだ収まっていない。
米国型の商業施設として、一時、米国小売業界を席捲した全国展開のショッピング・モールは、いまや集客力が落ちて、2016年以降でこれらの商業用不動産の価値は44%下落したといわれている。
これは業界では周知の事実で、スロー・メルティング(ゆっくりした恐慌)と一部金融専門家のあいだで呼ばれてきた。それが2020年の感染症の大流行でさらに痛手を被ったことはいうまでもない。
感染症の被害は一部商業用不動産の業界にも及んでおり、オフィス用のビルディングの不況が深刻になりつつある。
一般的な米国の銀行の、平均的なバランスシートでみると、38%のアセッツが商業用不動産のモーゲッジ(住宅抵当)といわれている。
とくに2008年以降は大手の銀行が不動産貸し出しを控えた結果、地方の中小銀行が商業用不動産貸し出しに力を入れた。銀行の商業用不動産に対する与信は3.6兆ドルといわれている。これは彼らの預金残高の20%に上る。
2015年から2022年のあいだに2.2兆ドルの増加である(これらの数字はWSJによる)。
一方、オフィスビルの価格は2022年初めからでみると25%の値下がりとなっている。
感染症による出社制限でホーム・オフィスが圧倒的に増え、いまや米国の週5日働くオフィス・ワーカーの3分の1は、自宅からの労働となっている。
その結果、たとえばNYシティーではコロナ前の水準の41%しかオフィスの稼働がなく、ガラガラのビルが溢れている。NYのオフィスビルの値段は今年50ビリオンドル(約7兆円)値下がりするといわれている。
なおこれから2〜3年のあいだにこれらの商業用不動産のモーゲッジの更改で、1兆5,000億ドルが低金利から、いまの高金利に切り替えられるといわれている。
すでに相当苦しい業界は、さらにこれから状況が悪化することになる。当然、業界では倒産が増え、その結果リジョナル・バンクスが、危機に陥ることは明らかである。
住宅用不動産は、高金利でそれほど被害を受けていない。というか、圧倒的に数の多い、既存住宅の売りが出ないのでマーケットは買いが目立ち、住宅価格は下がらない。なぜ売りが出ないかというと、圧倒的多数の住宅は、低金利の時代、住宅ローンの40%を占める長期フィックス(15〜30年固定金利)が3%台でファイナンスを受けているからである。
いま住宅を売りに出すと、買い替え時に7%を超えるローンを組まされる。ということで、安い金利のモーゲッジを放棄する、既存住宅の売りは出ないのである。
それがどうして困るかというと、3%の固定金利で住宅ローンを組んでいる銀行が、現在の調達金利との逆ザヤをもろに被っているわけである。
隣国カナダでは固定金利は5年までと決めて、銀行が過大な金利変動リスクに遭わないような政策をとっている。
米国は30年固定まであり、銀行は巨大なリスクを負っている。金利が下がって住宅の売りが大量に出てくると、いまの住宅価格の水準が維持できるのかむずかしいところである。
いずれにせよ、高金利なら銀行は逆ザヤローンで苦しい、金利が低下すると今度は売り手が一気に出てくることから住宅価格が下がる。担保価値は落ちるというどちらに転んでも苦しい状況に追い込まれている。
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