がんと診断されると、「もう働けない」「治療・療養に専念しなければ」といったイメージから、仕事を退職してしまう人は少なくありません。しかし、早まって会社を退職してしまうと、その後に後悔することも……。本記事では、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が、秋山恭子さん(仮名/41歳)の事例とともに、がんと仕事の両立について解説します。
年収430万円の41歳・おひとり様女性、乳がん罹患で絶望…「がんで仕事を失った会社員」の悲惨すぎる“いまの姿”【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

乳がん手術後の想定外だったこと

乳がん罹患のショックで会社を退職してしまった秋山さん、退職後約1ヵ月後に入院して乳がんの手術を受けました。秋山さんは仕事を辞めてしまうほど絶望していたので、医師や看護師さんは「心配ないですよ」といってくれるものの、「ただの気休めだ」と感じ「これで私の人生もおしまいか……」などといったことを考えていました。

 

ところが手術が無事に終わり、周囲がやさしく接してくれたことで秋山さんはだんだんと落ち着きを取り戻します。そして術後の検査を通じて秋山さんの乳がんは早期段階、がんの転移の可能性も低いということで特に治療の必要はなく、今後は定期的な検査で経過を見ていくことになりました。

 

『がん=死』という強いイメージを持っていた秋山さんですが、無事に退院し日常生活に戻っていくなかでがんに対する認識が大きく変わっていきます。そして2つの想定外を味わうことになるのですが、ひとつはよい想定外、もうひとつは悪い想定外でした。がんに対して誤った認識をしていると、その後の生活が悪い方向へ大きく変わってしまう可能性もあります。そういった結果を招かないために、以下で秋山さんが感じた2つの想定外について確認していきましょう。

 

がんなのにふつうに生活できる

まず秋山さんの乳がんに対する想定外の1つ目は、がんにもかかわらず退院してしまったらいままでどおりの日常に戻ったということです。

 

当初秋山さんは、がんがひとつ見つかるとあっという間に全身にがんが広がって、常時寝たきりで入退院を繰り返しながら最期を迎える……そんな思い込みをしていたのですが、まったくそういうわけではないようです。医師によると早期の乳がんであれば5年10年と仕事をしながら生きている人もたくさんいることを聞き、大きな安心感を得ました。

 

また入院期間も8日間と短かったのも予想外でした。数ヵ月の入院となり経済的な負担も大きくなると同時に、ずっとベッドで寝たきりで体力も落ちてしまい、日常生活が自力ではできなくなって、周りに世話にならなければ生きていけないものと想像していましたが、こちらも誤解であったことがわかりました。

 

そして乳がんの手術で切除をすると、乳房を失い肉体的だけではなく精神的にもつらい思いをする、といった情報をインターネットで見てそれも大きな不安要素でした。しかし、秋山さんは部分切除で済んだため、手術痕はあるものの、想定していたよりも深刻に感じるものではありませんでした。

 

手術前はもうおしまいだと思っていましたが、がんの再発や転移がなければ元気に長生きしていけるという希望も出てきました。当初の絶望的なまでの不安は少しずつ消えていき、落ち着いたら仕事について社会復帰をしなければという気持ちになりました。

 

思いもよらなかった「社会復帰への壁」

乳がん手術から退院しリフレッシュのため数週間のんびり過ごした秋山さん。乳がんの診断を受け絶望感から会社を辞めてしまったため、再び就職活動をするため情報収集を始めました。長く事務職を続けてきてPCスキルもそれなりにあるので、同じ事務系の仕事であればそこまで再就職も難しくないだろうと思っていました。

 

そして同じころ請求していたがん保険から銀行口座にお金も振り込まれました。秋山さんは入社したてのころに、上司の勧めもあり会社の団体契約で下記内容のがん保険に加入していました。

 

・がんの診断を受けたら50万円
・がんで入院をしたら1日あたり5,000円
・がんで手術を受けたら1回あたり10万円
・がんで通院したら1回あたり5,000円

 

保険会社からの案内を確認すると、がん診断の50万円、入院8日間の4万円、手術の10万円の合計で、受取額は64万円。入院費用は12万円程度の自己負担で済んだため50万円程度手元に残りました。いままであまり貯蓄をしておらず、退職して給与収入もなくなっていたところなので、秋山さんにとってこのお金は非常に助かりました。

 

もちろんそのお金だけでいつまでも暮らしていくことはできないので、秋山さんは就職先を探し、条件がよさそうな会社のいくつかに応募して面接も受けてきました。いくつか受ければどこかしらに採用されると思っていたのですが、どこからもよい結果が来ません。秋山さんの2つ目の想定外は、がんで退職してしまうと社会復帰が簡単ではないとうことです。

 

面接時に自分自身のことを正直に伝えるべきと思い、がんのことを公表していましたが10社目からの不採用の結果を受け、「がんのことを隠したままにしたほうがよいのでは?」といった悩みが出てきました。なかなか思うようにいかないまま2ヵ月以上経過し、秋山さんは疲れてきてしまい再び不安を感じることに。

 

そしてそれと同時に手元の資金も減ってきてこのままの状態が続くと生活自体が成り立たなくなってしまう恐れが出てきました。最初はがん保険のお金で助かったと感じましたが、もうがん治療の予定がないためこれ以上はがん保険からのお金も期待できません。そのため秋山さんは両親に相談して現在の賃貸マンションを退去し、実家に戻ることを決めました。