親の年金額や貯蓄額を知っている人はどれくらいいるでしょうか? ある程度はわかるということもあるかもしれませんが、親が元気なうちに、気になった際には後回しにせずに聞いておきたいものです。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、親の介護費用について、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。
世帯年収1,600万円、退職金見込み額3,000万円の50代・順風満帆夫婦、老後も安泰かと思いきや…「う、うそでしょ」さりげなく聞いた親の貯蓄額に愕然。「覚悟を決めるしかない」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の貯蓄額と年金額

筆者は、Aさん夫婦がご自分の老後のために事前に把握しておこうと相談にやってきたのかと思いましたが、どうやら違うようです。実はAさん両親の介護について心配をしての相談でした。「覚悟を決めるしかなく……今後のためにここへ来ました」Aさんはいいます。詳しく話を聞いていくと……。

 

Aさんの父親(79歳)は、地方の街で一戸建てに住んでいます。親から相続した家と土地を守り、母親(77歳)と2人で、穏やかに暮らしています。

 

Aさんの父親は会社員でしたが、身体的に丈夫な方ではなく、そのために何度か転職をしていました。50代で会社を退職したあとは、好きな書道を勉強して師範の資格を取得し、近所の人たちに教えています。

 

Aさんの両親が暮らしている場所は、県の中心地からは離れ、最寄りの駅からバスで20分ほどと、どちらかといえば田畑の多い地域です。自宅の家庭菜園で野菜などを栽培しています。

 

穏やかな暮らしぶりを聞くと、決して経済的に困っているようには感じられないのですが、昨年の夏に帰省した際、Aさんは思い切って、親の貯蓄額や収入について聞いてみることにしたそうです。

 

「元気なうちはいいのですが、父は身体も弱いですし、気がかりです。それに近ごろ、両親に会うたび、少しずつ老いを感じています……。見た目だけでなく言動や動きなどからも。なかなか切り出せないでいたのですが」

 

というのも、Aさんの父親は、「老後のことはAに任せておけば安心だ」ということを以前何度か口にしていたのです。Aさんには兄弟はいません。あと数年で定年を迎えますが、自分たちの老後のことを考えると、できれば生活しやすく仕事も選べる現在の住所地で暮らしたいと考えています。

 

Aさんの両親が経験したように、同居して親の世話をすることは難しい状況です。また、Aさんの実家へは、飛行機を利用して片道5時間ほどかかります。頻繁に行き来できる距離ではありません。そういった現実を踏まえて話をしなければなりません。体調が悪くなってからでは、なおさら難しいと思われました。

 

老後に必要なお金の準備

Aさんは両親に貯蓄額と年金額をさりげなく聞いてみたそうです。

 

すると父はあっけらかんと「貯金は100万円、年金額は2人で15万円」と答えました。「う、うそでしょ……?」Aさんは愕然としました。「100万円でなにかあったときどうするつもりなんだ……」Aさんは心の中でぼやきました。

 

生活費は上手くやりくりをして賄っているそうですが、このところ医療費が増えているようです。自宅の老朽化に伴うリフォーム費用や介護にかかる費用などは準備できていません。

 

書道の先生としての収入はありますが、勉強のため、書籍の購入費、教室までの交通費、所属団体への年会費や展覧会への出品費、墨や紙の費用などが必要です。1本数万円の筆を使ったり、気に入った書道家の作品を購入することもあります。父親が生きがいのある日々を送っていることは嬉しいことですが、収入として期待できそうにはありませんでした。

 

「覚悟を決めるしかない。自分が費用面で援助する必要があるんだ」Aさんは確信しました。