予期せぬアクシデントに遭遇したとき、誰しもが動揺します。しかし、そこで誤った判断を下せば、その代償は人生そのものになりかねません。たった一度の過ちが、平穏な日常と家族の未来をどう崩壊させてしまうのか。本記事では山下さん(仮名)の事例から、FP dream代表FPの藤原洋子氏が人生を守るための正しい行動とリスク管理について考えます。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
逃げたつもりはなかったんだ…月収150万円だった50代会社役員、暖房が消されたリビングで一人冷めた夕飯を食す日々。温かい我が家で待つ家族を裏切った「夜道の一瞬の出来事」【FPが警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「一瞬の判断」が地位と信用、将来設計におよぼす影響

山下健一さん(仮名/59歳)は、大手企業に勤務する役員でした。当時の月収は150万円を超えていました。その地位は、長年の努力と実績の証であり、多くの従業員とサービスの利用者、その家族からの信頼の上に成り立っています。妻(56歳、パート)と長女(29歳、会社員)、長男(26歳、会社員)の4人で住んでいる、東京近郊にある住居は、29年前に新築で購入した戸建て。65歳まで組んだ住宅ローンは、もうじき完済です。

 

その日、山下さんは仕事を終え、夜道を急いで車を走らせていました。頭の中は翌日の会議や業績のことでいっぱい。多忙な役員にとっては、ごくありふれた日常でした。

 

走行中、ドンッという「なにかにぶつかった」感触がありました。しかし、周囲は見通しが悪く、バックミラーにも異常は映っていません。「動物かなにかだろう」そう判断し、確認のために車を降りることなく、そのまま走り去りました。

 

ところが実際は人に接触していたのです。現場を目撃していた第三者が警察に通報。その結果、山下さんは、「ひき逃げ(救護義務違反・報告義務違反)の容疑で逮捕され、現在裁判が続いています。被害者が軽傷で済んだことは不幸中の幸いでしたが、山下さんが現場から立ち去ったという事実は消えません。

あまりにも大きな代償

交通事故後、「大事に至らなかった」「被害者が軽傷で済んだ」という事実に、山下さんも、山下さんの家族も安堵しました。しかし、「ひき逃げ」の罪の重さは、被害の程度よりも行動です。「人身事故の可能性があるのにも関わらず、停車せず、救護も通報も行わなかった」という行為そのものに対して、厳しい法的責任を問われることになります。

 

役員という立場にあった山下さんの逮捕は、すぐに勤め先の名称とともに報道されました。特に夜間の事故では、視界が悪く、なににぶつかったかすぐに正確に判断するには難しいかもしれません。仮に、その場で車を止め、負傷者を救護し、警察に通報していれば、「ひき逃げ」という重い罪に問われなかった可能性も……。

 

《ひき逃げに関わる主な罰則》

救護義務違反:10年以下の懲役または100万円以下の罰金

救護義務違反の点数:35点(こちらの点数だけでも運転免許が取り消され、取り消し日から3年間免許の取得はできなくなります)

報告義務違反:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金

 

一般社員であれば、影響は限定的だったかもしれません。しかし、山下さんは役員という立場にあります。経営に関わる役員が、「事故後に立ち去り、警察沙汰になった」という事実は、逮捕報道とともに瞬く間に広がり、企業イメージに直結する深刻なダメージを与えます。

 

役員とは、その報酬と引き換えに、私生活まで含めた一定のリスク管理を求められる存在です。その自覚が欠けた瞬間に組織全体の信用を揺るがす事態に発展します。