年を重ねていくと健康不安が大きくなり、さらにパートナーを亡くして1人暮らしとなると、「この広い家に1人で住むのはしんどい」と感じることがあります。そんなとき、選択肢のひとつになるのが老人ホーム。介護も医療も充実している施設であれば、終の棲家としても安心です。ただ、その安心が「絶対」とは言い切れず、せっかく入居したのに退去してしまうケースも珍しくはありません。みていきましょう。
年金月20万円・79歳の元勝ち組「老人ホーム入居後」のまさかの事態

元勝ち組が選んだのは、海を臨む「高級老人ホーム」

――ここなら死ねると思っていたんですよ

 

そう話す79歳男性。妻を5年前に亡くし、自宅で1人暮らし。終活の一環として財産を整理し、自宅も売却してしまおうと考えたといいます。そこで決意したのは「老人ホーム」への入居。選んだのは、海の見える郊外の高級老人ホーム」、いわゆる「自立型有料老人ホーム」に分類される施設でした。

 

「自立型有料老人ホーム」は、食事や家事などの生活支援サービスが提供されますが、医療・介護サービスの提供はなし。基本的に要支援・介護の人は入居不可となるタイプの施設で、仮に要支援・要介護の認定を受けると退去しなければならなくなります。

 

ただ男性が選んだ施設は介護居室を併設。別途費用がかかりますが、介護認定を受けたらそちらに転室して、引き続きこの施設を利用することができます。

 

日本財団が行った『人生の最期の迎え方に関する全国調査』によると、「どこで最期を迎えたいか」の問いに対して、58.8%が「自宅」。33.9%が「医療施設」、4.1%が「介護施設」でした。また「最期を迎えるのに絶対避けたい場所」を年別にみていくと、「介護施設」は「67~71歳」が28.8%、「72~76歳」が36.1%、「77~81歳」が40.4%と、年を重ねるごとに介護施設=老人ホームの回答は増えていきます。「終の棲家」として嫌う傾向があります。

 

ただ男性が選んだのは、高級老人ホーム。老人ホームの一般的なイメージである、ネガティブな雰囲気はまったくありません。施設には大浴場にトレーニングジム、カラオケルームなどが完備され、ダイニングではその日の気分に合わせてセレクトできる食事が提供されます。しかもメニューは高級ホテルのシェフが監修したというだけあり、その美味しさは折り紙付き。まさにホテルライクな日常を送れるというのが宣伝文句でした。

 

――部屋からも海を見渡せる。この景色をみて「ここで死ねたら最高」だと思った

 

家賃の前払いとなる入居一時金は8,000万円。月額費用は50万円ほどと、高級老人ホームをうたうだけあり、入居にかかる費用も別格。入居一時金は預貯金から工面し、月額費用と月20万円ほどの年金との差額は、預貯金を取り崩して対応。シミュレーションでは入居10年は問題はなく、自宅の売却益も合わせたら「100歳を超えても大丈夫」と男性。現役時代、大企業の部長職までのぼりつめたいわゆる“勝ち組”で、親の代から相続した家に住んでいたこともあり、「教育費や住宅ローンで大変な思いをしていた同僚に比べて、余裕があったと思う」と現役時代を振り返ります。高級老人ホームを選んでも余裕でいられるのは、現役時代の恵まれた環境にありました。

 

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、大企業部長(大卒・男性/平均年齢52.8歳)の平均給与は月収で75.6万円、賞与も含めた年収は1,269.8万円です。大企業・大卒男性、50代前半の平均給与は月収で57.1万円、年収で988.0万円なので、大企業の部長までのぼりつめると給与も破格。さらに住宅ローンの心配もなかったわけですから、資産形成もバッチリだったのでしょう。