2033年には住宅の30%が「空き家」…深刻化する空き家問題
テレビや新聞でよく耳にする「空き家問題」。国土交通省の発表によると、国内の空き家数は2018年時点で849万戸。実に、国内住宅数の13.6%もの住宅が空き家になってしまっています。
そして、この割合は年々増加しており、2033年には空き家率30%に達するという予測を立てている機関もあるほどです。これほどまでに日本の空き家問題は深刻化しているのです。
図表1では、『空き家の種別割合』として、空き家を賃貸用住宅・売却用の住宅・二次的住宅・その他住宅、と分類しています。
「賃貸用住」とは、その名の通り、アパートや賃貸用マンション等、住宅として貸しに出されている住宅のいわゆる「空室」、もしくは稼働していないアパート・マンションです。
「二次的住宅」とは、別荘等、二次利用を目的とした住宅です。
では、「その他住宅」とは一体何なのでしょうか? これは、前述した「賃貸用住宅」「二次的住宅」「売却用の住宅」(後ほど詳しく触れます)以外の住宅。つまり、一戸建て等、居住用の使われていない住宅のことを指しています。
この「その他住宅」の割合が年々増加し、社会問題として取り上げられているのです。
空き家問題における“最大の被害者”は「近隣住民」
では、空き家が増えることの何が問題なのか? 想定される問題として下記が挙げられています。
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●防災性の低下…倒壊、崩壊、屋根・外壁の落下、火災発生の恐れ
●防犯性の低下…犯罪の誘発
●ごみの不法投棄
●衛生の悪化、悪臭の発生…蚊、蝿、ねずみ、野良猫の発生、集中
●風景、景観の悪化
●その他…樹枝の越境、雑草の繁茂、落ち葉の飛散 等
【※国土交通省 資料(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001518774.pdf)より】
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上記のように、その地域や近隣に住む住人にとっては深刻な問題となっているケースも多々あります。
実に700件を超える空き家を見てきた筆者が、その経験を踏まえ、上記の問題に対する見解をお伝えします。
■防災性について
ニュースや新聞で見るように、倒壊・崩壊しそうな住宅というのは、そこを通る方々にとっては怖い存在であるのは間違いありません。ましてやその場所がお子さんの通学路となると、親御さんの心配はいっそうのことと思います。
一方で、各自治体の調査やアンケートを見ていると、倒壊・崩壊しそうな住宅というのは、実は多くはありません(もちろん今後増えていく可能性は大いにあります)。
倒壊・崩壊しそうな住宅以外の住宅も含めて、防災性の観点から見ると、一番の脅威は火災ではないかと思います。
嘆かわしいことですが、放火と見られる空き家での火災をニュース等で耳にすると、放火犯としては、誰も住んでいないからこそ心理的にも犯行に及びやすかったのでは?と感じます。
空き家で起こる火災の原因は、もちろん放火だけではありません。放置されていた枯木・枯葉等に何らかの要因で火が点いて一気に燃え広がってしまったり、屋内で何かしらの理由で火種が発生したりすることも考えられます。空き家では誰も住んでいないため周囲も気がつかず、消火活動も行われないため、最初はわずかな火でも大きな火災へと発展してしまいます。命をも奪いかねない深刻な問題です。
■防犯性について
やはり多いのは空き巣被害ではないでしょうか。空き家の調査に伺う中で、空き巣被害に遭われている住宅をよく見ます。やはり人がいないので、入りやすいのでしょう。空き家の所有者の方に「大変でしたね…」とお声がけしたところ、「またガラスの修理代がかかっちゃう。盗られるものはないんだけどね」とお聞きしたこともありました。
空き巣については、所有者本人はもちろん、普段からその地域に住んでいるお隣さんも気が気ではありません。今度は自分の家に空き巣が入るのではないかととても不安になってしまいますし、実際に被害に遭われてしまう可能性もあります。
また空き巣に限らず、知らない人が住みついてしまうんじゃないか、何かの犯罪に使われてしまうんじゃないかと、地域住民にとっては不安の種になってしまっています。
■空き家が増えれば、その地域の不動産価値が下落する要因にも
衛生問題や害虫・害獣問題、景観や枝木の越境など、近隣住民の不安と迷惑を挙げればキリがありません。さらに、その地域に空き家が増えることで、不動産価値の下落要素になってしまうといった資産的な問題に直面してしまう可能性もあるのです。
このように空き家とは、所有しているご本人もそうですが、何よりもその地域に住まう近隣住民に不安を与えたり、実害を及ぼしたりすることが問題なのだということがわかります。
それでも空き家が増え続けるワケ
では、なぜ空き家が増えてしまうのか? 大きな要因としては、以下の4つが考えられます。
①住宅供給過多
②空き家が市場に流通しない
③所有者不明土地
④日本の住宅の寿命は30年しかないため?
簡単にまとめると、「空き家が売りに出されず、誰のものかわからない空き家もたくさんある一方で、新築はどんどん供給され続けている。そのため、空き家もどんどん増え続けていってしまう」といった状態が安易に想像できます。
「持続可能な社会の実現」とは大きくかけ離れた姿と言えるのではないでしょうか。
今回は、②空き家が市場に流通しない理由、③所有者不明土地の問題 について、今後の国の施策とともに深掘りしていきたいと思います。
ここでもう一度『空き家の種別割合』のグラフをご覧ください(図表2)。
驚くべきは、空き家の種別のうち、売却用の不動産の割合がわずか3.5%に留まってしまっている、という事実です。しかもこの数字には賃貸用の住宅等も含まれますから、いわゆる「一般的な空き家」の売却率はもっと低いと予測されます。
では、なぜ空き家になっても売却しないのでしょうか?
図表3は和工房(株)で行った意識調査の結果です。
なんと、空き家を放置している理由の第一位は、「特に困ることがない」という結果になっています。これは、いくつかの市区町村が行ったアンケートの結果と同じで、驚愕の事実です。
これほどまでに空き家問題が取り沙汰され、近隣住民から不安の声も上がるなか、所有者ご本人は「困っていない」。とても大きなギャップが生じているのです。
なぜ「特に困ることがない」のでしょうか? いくつかの理由が考えられますが、「近所に住んでいない」「空き家への支出の負担が少ない」。この2点が大きいのではないかと思います。
空き家をお持ちの相談者から、「年に数回、風通しや草刈りに行くと、近隣の方から『もっと頻繁に草を刈ってくれ。』『この家は今後どうするんだ?』と声をかけられます。それが嫌なんです…」といった声をお聞きします。
普段から近隣に住んでいれば、ご近所の声を無視することはなかなかできないと思いますが、遠方に住んでいるのであれば、耳にすることはほとんどありません。
また支出に関しても、家が建っていれば、住宅用地特例といって、固定資産税は1/6、都市計画税は1/3と軽減措置が適用されます。そのため、更地にするより、ボロボロでもそのままにしておいたほうがお得…となるのです。
そこで、空き家問題の解決策として、2017年に「空家対策特別措置法(空家特措法)が施行されました。これは、倒壊の危険性がある空き家や、衛生上有害である空き家を、行政の指導・命令のもと、改善もしくは除去を目的としたものです。
しかし、行政代執行までには様々な手続きを踏まないといけないことや、特定空き家とまではいかない空き家は指導・命令の対象外だったことから、2023年に一部改正され、新たに「管理不全空き家」の指定が追加されました。
管理不全空き家とは、このままではいずれ特定空き家になることが予想される空き家のことで、認定されると、前述の住宅用地特例が適用されなくなり、実質税負担が大幅に上がります。
「管理不全空き家」という区分の登場により、今まで「放置しても困らない」と思っていた空き家の所有者も、対策を迫られる可能性が出てきます。
「放置しても困らない」は、元を辿れば“どうしても手放せない”
では、放置できないとなると、他にどういった方法があるのか? 多くの方は、「自分で住む」か「売却する」の2択を思い浮かべるのではないでしょうか。
「まわりに迷惑掛けているなら、売ってしまえばいい」とお思いの方も多いでしょう。しかし、そう簡単に手放せないのが「家」です。筆者は、アンケートの中の「困っていない」と答えた方の多くには、実は手放したくないという想いがあったり、手放せない何かしらの理由をしっかりと抱えていたりするのではないかと想像します。
実際、当社にご相談いただく方のほぼ全員が「手放したくない」あるいは「手放せない」何かしらの理由をお持ちです。ですから、アンケートに回答したほとんどの方にも、実は当てはまるのでは?と感じます。
「両親から、自分が生きているうちは手放すなと言われている。」
「思い入れがあって、とても手放す気にはなれない。」
「兄弟、親族と意見が合わず手放せない。」
「子どものために残しておきたい。」
みなさんが口にされるのは、ほとんどがこういった理由です。
「空き家問題」というように、空き家自体が悪者になってしまっていますが、こういったナイーブな感情が裏にはあり、「売ってしまえ」と簡単にはいかないのだ、と深く思います。
皆さんは、卒業アルバムや幼少期の写真、子供の成長の記録などを捨てた経験はあるでしょうか? これらは、多くの方が大事に取っておいているものではないでしょうか。
家も同じです。結婚した日、子供が生まれた日。お父さんやお母さんの笑顔や、怒られたこと、窓から見た夕日や、庭で遊んだキャッチボール等々。様々な記憶がまるでアルバムのように心に深く刻み込まれていて、家はそのアイコンとして残しておきたい、と思われるのです。
そんな思い出いっぱいの大切な家が、「空き家」となり、迷惑がられる存在になってしまう。これほど残念で悲しいことはないと思います。
「住まない」「売れない」のなら、「貸す」という第三の道も
もちろん、家は永遠に建っていられるわけではないので、いつかは取り壊さなければならない時がやってくるでしょう。
それでも、30年、40年が経った家もまだまだ現役で、これから20年、30年と活躍できる可能性を秘めています。
売りたくないなら、売れないなら、せめて活用してほしいと切に思います。
しかしアンケートにあったように、今度は「活用したいけど、どうやって活用したら良いかわからない。」という壁に直面します。
――「自分で住む」にも、すでに別の住居がある。でも、「売り」たくはない…。
そこに「貸す」という選択肢を入れると、活用の幅は一気に膨らみます。
家の状態によりますが、ある程度の資金をかけ、リフォームして貸し出せば、住居としての賃貸需要を見込める可能性が大いにあります(戸建賃貸の優位性については、またどこかでお話しできればと思います)。
また、都心部等ニーズがある場所では、リフォームせずとも、倉庫として貸し出せるかもしれません。流行りの宿泊施設にしたり、シェアハウスにしたりなど、エリアによっては活用の幅も広がります。
長年、建築と不動産賃貸業に身を置いていますが、多くの空き家はこうした活用ができる建物だと感じます。
もちろん中には活用が困難な空き家もありますが、立地がある程度の田舎でも、ある程度古くても、活用できる可能性は大いにあるのです。
ただ、ご相談いただく際には、
「賃貸としての管理の仕方が分からない」
「どうやって借りる人を見つければいいの?」
「リフォーム費用が回収できるかわからない」
「活用する資金がない」
といった声も多くいただきます。
不動産賃貸業を営む身としては、「えー!! 絶対に賃貸にしたらいいのに!」と思いますが(状態やエリアなどによっては、逆にやらないほうがよいケースもありますが)、経験がないとなかなか踏ん切りがつかないという気持ちもよくわかります。
どうやって始めたらいいのか、どこで学べばいいのか。方法はいくつかありますが、長くなってしまうので、これもまたの機会があれば書きたいと思います。
「売る」「住む」以外の選択肢は取りやすくなっている
空き家問題に取り組むには、空き家を売らない方々にどうやったら動いてもらえるか。「売らない」「管理しない」「賃貸募集もしない」さらに「リフォームを含め、一切の費用がいらない」。そんな夢のような仕組みができたらなあ、と考えていました。
しかも、収入まで得られるとしたらどうだろう?
ほぼ「無理ゲー」のような仕組みなので、どこにも見当たらなかったのですが、意を決して「ヤモタス」という仕組みを作ってしまいました。
詳細は割愛しますが、今はまだ東海地方の一部と限定的な活動です。
ちなみに、同じような仕組みで「アキサポ」というサービスもあります。関東中心で活動されているので、関東圏の方は覚えておくとよいのではないかと思います。
徐々にですが、ここ数年で空き家に取り組む企業も増え、「売る」「住む」以外の選択ができるようになってきています。
「空き家問題」。活用することで、また「活き家」へ。
国土交通省も、「空き家の対処に困ったら、早めに空き家のある市区町村の窓口、または不動産・相続などの専門家へ相談を。」と呼び掛けています(※引用:国土交通省 空き家対策特設サイト〔https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/akiya-taisaku/index.html〕より)。
国×企業×空き家所有者。このタッグが組めれば、空き家問題は大きく解決に向けて動き出すことができると信じてやみません。
松久保 正義
和工房株式会社 代表取締役
1980年生まれ、愛知県出身。ビル、マンションの建設現場の職人からリフォーム業界に転職。その後2013年に和工房株式会社を設立。空き家運用代行サービス「ヤモタス」の運営や、不動産のコンサルティング、改修工事等を行っている。