実家は遠く、帰るのは年に1、2度程度。でもたまに会うくらいが、親子の距離感としては理想的。そう考えている人は多いのではないでしょうか。しかし親が高齢となり、さらに一人暮らしだと、不安は募るばかり。そのような場合、「老人ホーム」もひとつの選択肢になりますが、施設に入居したら安心かといえば、そうとは言い切れないようです。みていきましょう。
老人ホーム入居の80代の母「家に帰りたい」とテレビ電話でボロ泣きも、60代息子は慰めることしかできず…無念 (※写真はイメージです/PIXTA)

息子の説得で入った「老人ホーム」だったが

とはいえ、「親子は程よい距離がいい」といえるのは、お互いが元気なときだけかもしれません。要支援・要介護認定者の割合は、70代前半で5.8%ですが、70代後半で12.1%、80代前半で25.8%、80代後半で59.8%と、年齢と共に倍々ゲームのように増えていきます。

 

要介護認定となる理由のトップは「認知症」で23.6%、続いて「脳血管疾患(脳卒中)」で19.0%、「骨折・転倒」が13.0%。要介護3までのトップは「認知症」ですが、日常生活を1人で送ることは困難で、自力での移動や起き上がりもできない要介護4以上になると、脳血管疾患(脳卒中)がトップになります。

 

高齢の親が要支援・要介護に……実家からあまりに多いと子どもとしては心配をするだけで、歯がゆい思いをすることになりそうです。

 

――先日、もうすぐ90になる母が亡くなりました

 

そう投稿した60代の男性。母親は亡くなる5年前に自宅で転倒し、骨折。入院をきっかけに足腰が弱くなり、寝たきりになったそうです。男性の住まいと実家は飛行機での移動も含めて片道5時間。頻繁に通うことはできず、外部の介護サービスを利用しながら、しばらくは生活していたとか。

 

しかし介護を必要とする高齢の母親が1人暮らし……毎日不安が募るばかり。ケアマネージャーと相談し、施設への入居を検討することになったといいます。しかし、頑として住み慣れた自宅を離れようとしない母親。

 

――お願いだ、老人ホームに入ってくれ

 

男性とケアマネージャーの説得の末、最終的には介護付き有料老人ホームへの入居が決まりました。あくまでも自宅での生活を望んでいた母親に対し、申し訳ない気持ちが強かったそうですが「介護スタッフが24時間近くにいる」という安心感は大きかったといいます。

 

しばらくすると、世の中はコロナ禍に。それまで1ヵ月に1度、面会に通っていましたが感染予防のため禁止に。その後「1ヵ月に1度、テレビ電話での面会」が施設との約束となったといいます。そして初めのテレビ電話での面会で、思わぬ事態に。

 

――母が「家に帰りたい」とボロボロと泣き出したんです

 

話を聞くと、その施設は認知症患者が多く、コミュニケーションの取れる入居者がいないのだとか。行動が制限される前は、車椅子での毎日の散歩が気分転換になっていましたが今はそれも禁止。毎日テレビを観るだけ。話し相手もいない、孤独で仕方がない、というのです。

 

一応、施設は見学して決めたものの、入居者は自室にいて、認知症患者ばかりということは気づかなかったと男性。だからといって状況が状況なだけに、涙する母親を慰めるしかなかったとか。

 

孤独に耐える母親も次第に慣れたのか、ボロボロと泣くことはその1回だったといいます。ただ認知症患者が多い施設を選んでしまったことに、男性はずっと後悔の念を引きずっていたといいます。

 

老人ホームを見学する際、たとえば昼食を済ませた後などは、入居者は自室でゆっくり休んでいることが多く、本当の施設での生活を計り知れないことが多いとか。お勧めは、入居者の雰囲気や介助の様子なども見られる「ランチタイム」。昼食時は忙しいと見学を断られることもあるため、その場合は「レクリエーションの時間帯」でも。入居者の雰囲気もしっかりと見極めて、馴染めるかどうか判断することが、施設選びで後悔しないための鉄則です。